ガガイモ(Metaplexis japonica)の名称について、生成AI(Gemini)の協力も得ながら調べてみました。
【まとめ】
現在の標準和名ガガイモの古名は「加加美」であり、漢名は「羅摩」、一部の文献で「ガガイモ = 白蘞」となっているのは、日本書紀の誤りを引き継いだものである。
まず、広辞苑第三版(1983)には、下記の様に示されています。また、北村ら(1957)でもカガイモの漢名は「羅摩」と記されています。
◎がが・いも[羅摩]
トウワタ科(注1)の多年生蔓草。葉は長心臓形。茎葉を切れば白汁が出る。夏、葉腋に淡紫色の花をつける。果実は長さ10センチメートル余の楕円形、種子に白色の長毛がある。種子を乾燥したものを乾葉とともに強精薬とし、また種子の毛は綿の代りに針さしや印肉に用いる。乳草。シコイイ。クサパンヤ。
注1:現在の分類体系では、キョウチクトウ科 ガガイモ亜科
遡ると、古事記(712)の大国主の国造りの段には、下記の記述があります(新村・菅野,1978)。これにより、「天の羅摩船」が、造化三神のひと柱であるカムムスヒの子スクナビコナの乗り物であったと伝えられていたことが分かります。
◎故、大国主神、出雲の御大の御前に坐す時に、波の穂より天の羅摩船に乗りて、鵝(注2)の皮を内剥に剥ぎて衣服に爲て、埽り来る神有り。尒に、其の名を問ひたまへど答へず。且、從へる諸神に問ひたまへど、皆「知らず。」と自す。尒に、多迩具久白言さく、「此は久延毗古必ず知りつらむ。」とまをす。即ち久延毗古を召して問ひたまふ時に、答えて白さく、「此は神産巣日神の御子、少名毗古那神なり。」とまをす。(後略)
注2:ガチョウ
平安時代初期に編された百科事典 本草和名(918)には、下記の記述があり、白蘞の漢名には様々な異名があるものの、和名では「加々美」が相当すると書かれています。
◎白蘞(仁諝音廉儉反)
一名莵核、一名白草、一名白根、一名昆侖(楊玄操音論)、一名甘草、一名蚖蚵、一名良兪(己上三名出釋藥性)、一名白臨(出葛氏方)、一名莵菀(出兼名苑)、和名也末加々美
さらに、加々美が羅摩であることは、和名類聚抄(931-938に下記の芄蘭の項目があることで繋がります。
◎芄蘭
本草ニ云羅摩子(注3)(一名は芄蘭(上音丸和名加加美)
注3:羅摩子は羅摩の実の漢方名
大和本草(1708)には該当項目が見当たらないのですが、本草綱目啓蒙(小野,1805)には、下記が記載されています。同書の詳細な記述によれば、現在のガカイモを示していることは明らかですので、江戸時代後半には『ガガイモ = 羅摩』は広く認められていたと考えてよさそうです。
◎羅摩
カヾミクサ カヾイモ ガブナ筑善 ガブロ同上 トウガメヅル チヽグサ チグサ大和本草 チトメ チガイモ トンボウノチ羽州津軽 ガヾラビ加州 ガンガラヒ越後 ハトカミ タトウガラシ下總 ゴガミヅル仙臺 ゴガミ同上 ゴウカミ同上 ゴガラビ羽州 コウガモ遠州 ゴウガメ駿州 カトリグサ江都 カライノモチ勢州 ムジナノチ佐州 シコベイ備前 イカシキ泉州 コマンザイ南部 ゴマザイ同上 ゴマシロ同上 ゴマジョ津軽 莢名下皆同 コマジロカイ南部 ハンシヤ豫州 カラスナベ雲州 スヾメノマクラ越前
一名苦丸 千金方 砍合草 本草洞論 羊角菜 救荒本草 羊嬭科 合鉢兒 婆婆鍼杔兒 細絲藤 過路黄 芖同上 烏朴 郷藥本草 線包 本草彙言實名
山野ニ最モ多シ春奮根ヨリ苗ヲ生シ藤蔓繁延ス葉形橢ニ𬼀尖リ本ニ一缼アリ深縁色光澤ニ𬼀厚ク两两對生ス小ナル者ハ長サ一寸餘大ナル者ハ四五寸茎葉ヲ断ズレバ白汁出夏月葉間ニ穂ヲ生ス長サ一寸小長花ヲ開ク五辨ニ𬼀形鈴鐸ノ如シ白色紫㸃雅ナル者ハ莢ヲ葉間ニ生シ穂上ニ生セス長サ三十四寸径リ一寸許體圓ニ𬼀末鋭ナリ皮ニイボアリテ胡瓜ノ如シ嫩ナル者ハ麪ヲ纏シ油煎シ食フベシ葉モ亦同シ莢熟スレバ殻紫色ヲ帶ブ竪ニ自ラヲ折テ舟ノ形ノ如シ内ニ白絨アリ針ノ如シ針根エトニ一子アリ形圓扁ナリ其針風ヲ見レバ便チ張リ開テ綿ノ如シ白光銀ノ如シ然レ𪜈碎ケ易ク𬼀絲トナスベカラズ甚木綿ニ似タリ故ニ俗ニ和ノバンヤト云フ此綿ヨク血ヲ止ム秋深テ苗枯ル其藤皮中ニ白絲アリ甚強ク釣緡トナスベシ一種トキハノガヾイモアリ花戸ニ鬼女蘭と云フ和州播州紀州深山ニ多シ藤蔓最大ナリ葉ハ形圓ニ𬼀尖リ大ナル者ハ六七寸花ハ羅摩ニ似テ白色實モ亦相似テ大ナリ藤絲最強ク弦トナスベシ是救荒本草ノ牛嬭菜ナリ
集解 構汁ハ カヂノキノ汁唐山ニテ金箔ヲ著ルニ此汁ヲ用ユ故ニ五金膠漆トモ云フ
ところが、ここで気づくことは、本草和名に示されている「白蘞」が「蘿摩」と同じ植物種であるとは限らないことです。そこで調べてみると、本草綱目啓蒙(小野,1805)には「蘿摩」とは別に「白蘞」の項目もあり、「白蘞」は本邦には自生しない(注4)としていました。従って「蘿摩 = 白蘞」はあり得ないことになります。
◎白蘞
和漢通名
一名 菓 正字 五福變 輟耕録 莬荄 正字通りニ爾雅ヲ引 加海吐 採取月令 犬矣吐邑 村家方
和産ナシ漢種享保年中ニ渡リ今傳栽ル者多シ花戸ニモ亦多シ春宿ヨリ苗ヲ生ス藤蔓甚長シ(後略)
注4:「白蘞」は、ブドウ科のAmpelopsis japonicaの根を乾燥した生薬名で、和名にカガミグサを充てる事があるようですが、米倉(2012)にも記載がないので、現在でも我が国での自生はないと考えられます。
江戸時代以降の本草書の著者達ならば必ず参照したと思われる本草綱目(李,1596)を念のため確認しましたが、こちらにも『羅摩』と『白蘞』とが別項目として記載されていました。
そこで、生成AI-Geminiに相談したところ、古事記伝(本居,1790)を紹介されました。本草書を中心に調べていたので歴史書の注解である同書は盲点でしたが、羅摩がガガイモと同じであることは、上述の本草綱目啓蒙の記述からも明らかであり、「白蘞 = ガガイモ」とした誤りは日本書紀を引き継いでいたことが確認できました。これで「羅摩→ガガイモ(古名:加加美)」であり、本草和名の「白蘞」は日本書紀からの引用による間違いであることが判明しました。
◎天之羅摩船天之駕云八天之蘿天之真析な登の例なり(蘿字延隹本爾蘿駕作る八波可之良爾 艸を加さるなり 諸本又舊事紀旧印本釈日本紀爾引多留加駕みな艸なし古本然ぞ有良む)
書紀爾は以白蘞皮爲舟登あり 和名抄爾本草云蘿摩子一名芄蘭和名加〃美 白蘞和名夜末賀〃美徐長卿和名比女賀〃美な登阿り 今の俗ハ加賀良比登毛加々芋登毛云□其殻を割多るハ舟爾以耶良久似多る物なり登ぞ(後拾遺集爾 滿気が多能 は都加し遣なる 朝皃を かゞみ草爾毛 見せて毛るか那)
【文献】
新村出 編 (1955) ががいも、広辞第三版、p405、岩波書店、東京.
北村四郎・村田源・堀勝 (1957) 原色日本植物図鑑(上)、210p、保育社、東京.
中村啓信・菅野雅雄 編 (1978) 日本神話、193p、桜楓社、東京.
深根輔仁 (918) 白蘞、本草和名上巻四十四、URL: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100016063/1, Acceseed: 2026-09-26.
源順編 (931-938) 和名類聚抄(二十巻本)、巻二十章木部卅二、URL: https://www2.ninjal.ac.jp/textdb_dataset/kwrs/, Accessed: 2026-09-27.
貝原篤信 (1708) 大和本草、URL: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100248612/1, Accessed: 2026-09-27.
小野蘭山 (1805) 羅摩、本草綱目啓蒙 巻之十四下、571-573、https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00005159?page=571, Accessed: 2026-09-27.
小野蘭山 (1805) 白蘞、本草綱目啓蒙 巻之十四下、556-557、https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00005159?page=556, Accessed: 2026-09-28.
本居信長 (1790) 大國主ノ神國避の段、少名毘古那神の条、古事記伝第十二之巻 神代中之巻(No.5 151-152/205)、URL: https://www.digital.archives.go.jp/img/3681166#151, Acceseed: 2026+09-28.
李時珍 (1596) 羅摩(羅䕷)、本草綱目草部目録 第十八巻上 草部七蔓草類(No.18 93/117)、URL: https://www.digital.archives.go.jp/img/3930151#93
李時珍 (1596) 白蘞、本草綱目草部目録 第十八巻上 草部七蔓草類(No.18 68/117)、URL: https://www.digital.archives.go.jp/img/3930151#68
米倉浩司 (2012) 日本維管束植物目録、379p、北龍館、東京.
【鶏肋】
1980年代のロックバンド『ラ・ムー』のデビューシングル『愛は心の仕事です』を思い出しました。洋風なバンド名なのに、ジャケットデザインは日本神話に取材している様なのですが、「RAMU ← 羅摩」が語源で、かの乗り物こそ、天の羅摩船だった可能性に思い当たりました。(あくまでも憶測ですが…。)

因みにラ・ムーは、時代を先取りし過ぎていたと思われ、長くは続かず1988年のデビューからわずか一年余りで解散していたようです。今では珍しくない(寧ろ時代遅れ?)アイドル歌謡とロックとの融合として初期の試みでしたので、大いに期待したので残念ではあります。



