鷹取山は見えません。さながら天空からの眺めでした。
本日、夕飯は瓦そば。瓦そばは、もともとは川棚温泉の名物料理だそうですが、今では広く中国地方のスーパーで普通に売られているようです。家内の出身が広島なので、当家では定期的に巡って来るメニューです。麺は茶そばと決まっているのですが、その理由は定かではありません。
鷹取山は見えません。さながら天空からの眺めでした。
時折、園芸店で見かけるグリーネックレス(緑の鈴)がキク科であることに気づいたのは、20年ほど前でした。たまたま花が咲いていたので、それと気づきました。その後、キオン属(Senesio属)であると知って、さらに驚いたのは数年前の事。COVID-19禍で外に出ることが憚られることもあり、これまで撮影していたキオン属の写真を整理するとともに、キオン属の周辺について少し調べてみました。
キオン属は合弁花の代表ともいえるキク科の中で最大の属です(小山,1994)。キオン属には、草本と木本とが含まれており、乾燥地に適応した多肉植物から湿地を好むものまで、多様な環境に適応した種を包含しており、多型的な分類群と考えられてきました。このため、キオン属を細分化しようという動きは以前からあったようです(Jeffrey & Chen,1984; 小山,1994) 。
日本産のキオン属に関する記載は、小山(1995)がよく纏まっているとの情報(大場,1997)がありましたが、当該文献は未入手のため、ここでは、Jeffrey & Chen(1984)、小山(1994)などを参考にしました。
【上位分類】
分子系統分類の応用により、キク科は、現在バルナデシア亜科、タンポポ亜科、キク亜科の3亜科が広く認められており(渡邊,1997)、さらなる細分化が提案されています。キオン属はキオン亜連に、キオン亜連はサワギク連に、サワギク連はキク亜科に属します。
キク科 Compositae
キク亜科 Asteroideae
サワギク連 Senecioneae
キオン亜連 Senecioninae
キオン属 Senecio
【亜連以下の分類】
Jeffrey & Chen(1984)によれば、西アジアに自生するサワギク連(tribe Senecioneae)の植物は、下記の3亜連、22属に整理されます。
tribe Senecioneae サワギク連(族)
subribe Tussilagininae フキタンポポ亜連
1. Doronicum ドロニクム属
2. Dendrocacalia ワダンノキ属
3. Farfugium ツワブキ属
4. Ligularia メタカラコウ属
5. Cremanthodium
6. Sinacalia
7. Dicercoclados
8. Parasenecio コウモリソウ属
9. Syneilesis ヤブレガサ属
10. Miricacalia オオモミジガサ属
11. Tussilage フキタンポポ属
12. Petasites フキ属
subtribe Tephroseridinae オカオグルマ亜連
13. Sinosenecio
14. Tephroseris オカオグルマ属
15. Nemosenesio サワギク属
subtribe Senecioninae キオン亜連
16. Synotis
17. Cissampelopsis
18. Senecio キオン属
19. Crassocephalum ベニバナボロギク属
20. Erechtites タケダグサ属
21. Gynura サンシチソウ属
22. Emilia ウスベニニガナ属
キオン属は少し前なら世界中に2000種近く(小山,1995)、整理が進んでいる今でも約1000種あるとされています(Jeffrey & Chen,1984; Ozetova et el,2017)が、分類所属に検討の余地のある種が今でも多く含まれているようです。
帰化植物や園芸種の販売品も含めて、本邦でみかける種には下記などがあります。このなかで最もなじみ深いのは、欧州原産で明治時代初期に帰化したノボロギク(S. vulgaris)です。三浦半島エリアに自生するキオン属は本種のみと思われます(神奈川県植物誌調査会,2018)。
ノボロギク(2018年11月25日撮影)
【在来種】
キオン Senecio nemorensis
ハンゴンソウ Senecio cannabifolius
タイキンギク Senecio scandens
コウリンギク Senecio argunensis
エゾオグルマ Senecio pseudo-Arnica
【帰化種】
ノボロギク Senecio vulgaris
アレチボロギク Senecio sylvaticus
ナルトサワギク Senecio madagascariensis
ダイコクサワギク Senecio inaequidens var. daikoku
シンコウサワギク Senecio inaequidens var. inaequidens
マツバサワギク Senecio blochmaniae
ヤコブコウリンギク Senecio jacobaea
ハナノボロギク Senecio vernalis
ネバリノボロギク Senecio viscosus
【園芸種】
緑の鈴(グリーンネックレス) Senecio rowleyanus Syn. Curio rowleyanus
弦月(三日月ネックレス) Senecio radicans Syn. Curio radicans
銀月 Senecio haworthii Syn. Caputia tomentosa
ドルフィンネックレス Senecio peregrinus Syn. Curio × peregrinus
大弦月城(アーモンドネックレス) Senecio herreanus Syn. Curio herreanus
紫月(ルビーネックレス) Senecio Othonna capensis Syn. Crassothonna capensis
白寿楽 Senecio citriformis Syn. Curio citriformis
青涼刀 Senecio flcoides Syn. Curio flcoides
マサイの矢尻 Senecio kleiniiformis Syn. Curio kleiniiformis
万宝 Senecio serpens Syn. Curio repens
美空鉾 Senecio antandroi
セネシオ ヤコブセニー Senecio jacobsenii Syn. Kleinia petraea
セネシオ フレーリー Senecio fulleri
ピーチネックレス Senecio spp. (hybrid ?)
ムラサキオグルマ Senicio elegans
マーガレットアイビー Senecio macroglossus
シネラリア Senecio cruenta Syn. Pericallis x hybrida
シロタエギク Senecio cineraria Syn. Jacobaea maritima
【緑の鈴の所属】
Jeffrey(1986)は、それまでキオン属のRowleyani節とされていた多肉植物のうち25種をCurio属として独立させました。これを採用するならば、Curio属のタイプ種として指定された『銀の鈴(グリーンネックレス)』の学名は、Curio rowleyanusとなります。Ozetova et el(2017)による分子系統解析の結果もCurio属の独立性を支持しており、少なくとも下記の15種はCurio属であると報告しています。
銀の鈴がキオン属としては異質だと言う直感は間違いではなかったようです。
Curio属 genus Curio
C. acaulis
C. articulatus 七宝樹
C. archeri
C. citriformis 白寿楽
C. crassulifolius
C. ficoides 青涼刀
C. hallianus
C. herreanus 大弦月城(アーモンドネックレス)
C. kleiniiformis マサイの矢尻
C. muirii
C. radicans 弦月(三日月ネックレス)
C. repens 万宝
C. rowleyanus 緑の鈴(グリーンネックレス)
C. sulcicalyx
C. talinoides
さらに、Taxon Pagesには、上掲の15種のうちC. kleiniiformisとC. muiriiが載っていない代わりに、下記の9種が載っています。
C. avasimontanus
C. cicatricosus
C. cuneifolius
C. hanburyanus
C. humbertii
C. ovoideus
C. peregrinus ドルフィンネックレス
C. pinguifolius
C. pondoensis
【かつてキオン属だった植物】
大場(1997)によれば、かつてキオン属に分類されていて、キオン属から分離された本邦産種は下記になります。その他、園芸種では、シネラリア、シロタエギク等もかつては、Senecio属とされていたことがあります。
サワギク属 Nemosenecio
サワギク Nemosenecio nikoensis
オカオグルマ属 Tephroseris
キバナコウリンカ Tephroseris furusei
タカネコウリンギク Tephroseris flammea
コウリンカ Tephroseris flammea subsp. glarifolia
オカオグルマ Tephroseris intergrifolia var. spathulata
ミヤマオグルマ Tephroseris kawakamii
サワオグルマ Tephroseris pierotii
タカネコウリンカ Tephroseris takadana
類縁種の写真
比較的よくみかける黄色い舌状花の『紫月(ルビーネックレス)』はCrassothonna属に、マーガレットアイビーはSenecio属に残ることになります。
Senecio inaequidensは、三浦市を訪ねた際にたまたま撮影していたもので、同定にはウェブ上の写真を参照しましたが、近縁の別種である可能性もあり、特定外来種ナルトサワギク(S. madagascariensis) もその可能性のひとつです。S. inaequidensの神奈川県内の報告としては、ダイコクサワギク(S. inaequidens var. “daikoku“) とシンコウサワギク(S. inaequidens var. “inaequidens“) の2変種があり(神奈川県植物誌調査会,2018)、さらにS. madagascariensis はS. inaequidens のシノニムであるとの未確認情報もあるようです。この写真では同定の鍵となる鋸歯や総苞片が鮮明に写っていないので、そのあたりのことも含めて、いずれ現地を調査ができればと思います。
【毒性】
Senecio属の植物は、アルカロイド(Pyrrolizidine alkariods = PA)を含むことがあり、アルカロイドは数種類あるようですが、その中で少なくともセネシオニン(Senecionine)はラットに対する肝毒性のあることが知られていてます。国外では、牛、馬などの家畜での死亡例が報告されています。
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これらの成分を含む分類範囲は不明ですが、S. vulgaris(ノボロギク), S. inaequidens(ダイコクサワギク、シンコウサワギク), S. jacobaea(ヤコブコウリンギク), S. madagascariensis(ナルトサワギク), S. glabellusでの毒性発現報告があることから考えて、Senecio属のうち我が国への帰化種に広く分布するものと思われます。
本邦への帰化が確認されているSenecio属のうちSenecionine含有の報告がある種
ダイコクサワギク S. inaequidens var. daikoku
シンコウサワギク S. inaequidens var. inaequidens
ヤコブコウリンギク S. jacobaea
ナルトサワギク S. madagascariensis
ハナノボロギク S. vernalis
ネバリノボロギク S. viscosus
ノボロギク S. vulgaris
この毒性のこともあり、繁殖力が旺盛で近年我が国での分布を急速に拡大しているナルトサワギクは、2006年に特定外来生物指定されています(環境省,2019)。
【まとめ】
キク科の中でも最大の種数を包含するキオン属は多系統であると考えられてきました。このため、遺伝子解析技術の進歩に伴って、今後分子系統手法による整理がさらに進むと思われます。我が国でもよく見かける園芸種『銀の鈴』は、Curio属としてキオン属から独立させることが浸透して行くことでしょう。
【余談】
キオン属の事を調べるにあたって、『さわぎく』というクレーの絵が中学校の頃の美術の教科書に載っていたのを思い出しました。当時は、おかしなタイトルと思っていましたが、ほぼ半世紀を過ぎて気がついたのは、『さわぎく』というタイトルは二重の誤訳だったのだろうという事です。
キオン属Senecioは、ラテン語の『Senex=老人』が語源で、この属の植物が白っぽい冠毛を持つことから老人のイメージでつけられたのだそうです。恐らく、クレーの絵のタイトルの、本来の意味は『老人』だったのでしょう。
サワギクNemosenecio nikoensisは、Jeffery & Chen(1984)による所属整理以前はSenecio属でしたが、当時でも『Senecio』をそのまま訳せば『キオン属』ですから、二重におかしなことになっています。もっとも、シュールレアリズムの香りがする作風ですので、わざとそのように間違って訳した可能性もあります。
![]() 『Senicio』Paul Klee作 1922年 |
【参考文献】
Geoger DE (1983) Comparison of the toxicities of Senecio jacobaea, Senecio vulgaris and Senecio glabellus in rats
Jeffrey C & Chen YL(1984) Taxanomic studies on the tribe Senecioneae (Compositae) of Eastern Asia, Kew Bulletin, 39, 205-446, DOI: 10.2307/4110124, URL: https://www.jstor.org/stable/4110124, Accessed: 2020-05-02.
Jeffrey C (1986) The Senecioneae in East Tropical Africa Notes on Compositae: IV, Kew Bulletin, 41:4, 873 – 943, DOI: 10.2307/4102988, URL: https://www.jstor.org/stable/4102988, accessed: 2020-05-02.
小山博滋(1994)キオン, 植物の世界, 6, 1-171 – 1-174 朝日新聞社, 東京.
渡邊邦秋(1997)キク科植物の系統と進化、種生物学研究, 20, 11-25.
大場秀章(1997)キオン属を細分する場合の学名, Jap J Bot, 72:2, 125.
Heger & Böhmer (2005) The invasion of central Europe by Senecio inaequidens DC. – A complex biogeographical Problem, Erdkunde, 59, 34-49, DOI: 10.3112/erdkunde.2005.01.03, Accessed: 2020-05-04.
Ozetova LV, Schanzer IA & Timonin (2017) Curio alliance (Asteraceae: Senecioneae) reviced, Wulfenia, 24, 29-52, URL: https://www.zobodat.at/pdf/Wulfenia_24_0029-0052.pdf, Accessed: 2020-05-02.
神奈川県植物誌調査会(2018)神奈川県植物誌2018(下)、1556-1559.
Curio (Asteraveae), Taxon pages, URL: http://encinos.org/taxpage/0/genus/Curio.html, Accessed: 2020-05-04.
農林水産省、食品中のピロリジジンアルカロイド類に関する情報、URL:https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/pyrrolizidine_alkaloids.html, Accessed: 2020-05-05.
環境省(2019) 特定外来生物等一覧, URL: https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.htmlAccessed: 2020-05-05.
『11人いる!』という萩尾望都原作のSF漫画を御存知だろうか。1975年初出というから45年前の作品である。ハヤカワSF文庫の創刊が1970年だったことを考え合わせると、SFブームのさなかであった頃の作品で、1977年にドラマ化、1986年にはアニメ映画化もされた。
かつて、このアニメ作品をVHS版で持っていたのだが、そこからパソコンに取り込んだことがあった。多分30年近く前のことだったと思うが、その後何台ものパソコンのハードディスクを経由して、今もISO形式のファイルがあるので、マウントして再生することが出来る。
作品の舞台は、星間連盟により設置された宇宙大学の入学試験の最終試験会場として設定された廃棄移民船。原作では白号、アニメ映画版ではエスペランサ号と名付けられたこの宇宙船のホールには『宇宙の守護神』と題した彫像のレプリカがあり、その台座にはなにやら銘文が刻まれていた。もしやと思い画面を止めてみると何とか読み取れることに気づき、読み取って翻訳してみたのが下記である。(Esperanza:西 = Hope:英)
—————————————————————————–
We desire this statue of the “Guardian Lady of Space”, hoping that “Esperanza” will travel safely carrying our brothers and sisters to the new world where the light of Terra has never shone. “Esperanza” is our hope, flying from Terra to the vacuum of deep Space at a speed faster than light may her destiny be one of peace and may yours love and courage be her guard.
エスペランサ号が我らの同胞を地球の光が決して輝くことのない新世界まで無事届けてくれることを、宇宙を守護する女神の像に強く願う。
エスペランサ号は我らの希望、地球から真空なる宇宙へ光より早く翔け、その運命が平和であり、愛と勇気が守護されますように。
—————————————————————————–
ファンならご存知なのだろうが、ウェブ検索しても出てこなかったので、ここに再録する。
【追記】
1971年に日本語版の刊行が始まった『宇宙英雄ローダンシリーズ』に登場した最初のアルコン艦の搭載艇が『グッド・ホープ』であったことを思い出した。後にこのクラスの名称にもなり、初期設定では巡洋艦クラス以上に搭載される小型宇宙艦で、直径60メートルの球型、赤道部に装備される駆動部が遷移エンジンタイプでの航続距離は500光年、後にリニアエンジン搭載タイプでは航続1万光年であった。
グッド・ホープ級艦載艇(ディンギータイプ『オタマジャクシ』):外部サイト
【追記2】
アニメ版『11人いる!』はYoutubeで見ることが出来るようです。まだ著作権の有効期限内ですが…。
【文献】
萩尾望都(1994)11人いる!<新編集版>、323p、小学館、東京.
早川書房編集部(1994)ローダンハンドブック、367p、早川書房、東京.
Good Hope, url:https://www.perrypedia.de/wiki/GOOD_HOPE, Accessed:2020-05-01.
新型コロナ禍の東京を通過して大宮を訪ねました。横浜のソメイヨシノは今まさに満開ですが、大宮では既に時期を過ぎていて、遅咲きの八重桜『関山』の開花が始まっていました。
帰りに通り過ぎた氷川神社境内の門客人神社の近くには、少なくとも50年位前までは「秋葉権現大明神」の石碑があったので、少し前から探しているのですが、今日もみつけることが出来ませんでした。
痤花碑銘并序
缾花之来也舊矣业實出於騷人韻士之鍾愛者也夫狂風暴雨花之
遇厄可勝歎哉於是停逝春於窓間致野芳於案下以適其惓戀之情
既有其事則不能無其術有其術則不能無工拙一花一枚苟違其天
則不啻損花命又不足恱眼也守屋一鵰號巖松齋法眼武州足立郡
片柳村人世為邑長其為人温籍韻雅冣善插花矯揉不害其性曲直
不失其天故花葉堪久而色澤不衰其沠流傳名播一時入社學技者
凡三千五百有餘人實足粧㸃太平世界矣毎佳辰今日會社徒於同
郡一之宮插花以供神且撰其巧而善者著百缾圖?干巻其書當以
為缾花規則而其所供之枯花萎草堆積為山社徒傚瘞鶴之故事埋
之於叢祠之側建碑以祭其花神使予記其事為其銘曰
風葩雨蕊 勒住移時 人工之妙 能補天機 花之無情
奚知我思 強割其愛 懇葬西施 芳魂難招 蜂愁蝶悲
嘉永三年歳次庚戌秋八月
波山逸撰文 米翁?題額 遂葊乿書
男一雞建 廣羣鶴刻
(人込みは避けて)午前中は家族で鷹取山公園へ、午後からは一人で海の公園まで出かけました。
昨年末に中国で発見された新型コロナウィルスに関しては、かなり怪しげな情報も飛び交っているようで、マスコミの報道も今一信用できません。そこで、ウェブで検索して情報を整理してみました。
そもそもコロナウィルスとは
SARSとMERS
新型コロナウィルス(COVID-19)
感染防止対策
感染者と死者
死亡リスク
分析法
文献
【そもそもコロナウィルスとは】
最も一般的なコロナウィルスは、沢山ある鼻風邪の原因となるウィルスのひとつであるHCoV(Human Coronavirus)で、いくつかのグループがあることが分かっています。ヒトは6歳くらいまでにこの様なコロナウィルスに一度は感染するとされています(国立感染症研究所, 2020a)。いわゆる鼻風邪が重篤化することは稀なので、特段の治療をしないことが普通です。
コロナウィルスの遺伝情報を担うゲノムは一本鎖RNA構造で、このRNAを包むエンベロープがあり、エンベロープにはスパイクと呼ばれる王冠(corona:ラテン語)状の構造を持つため、コロナウィルスと呼ばれています(田口, 2003)。ニドウイルス目コロナウィルス亜科(Coronavirinae)に分類され、塩基配列及びアミノ酸配列の相同性から3つないし4つの属に分けられます。RNAウィルスとしては大きな約3万塩基対のゲノムサイズを有し(田口, 1990)、今世紀になって注目されている約120万塩基対のゲノムサイズを持つ巨大DNAウィルス(緒方, 2015)程ではないにしろ、RNAウィルスとしては最大級のサイズで、直径は60~220nmになるそうです。RNAウィルスなので、宿主の(核内ではなく)細胞質で増殖します。また、RNAウィルスの特徴として変異しやすい(佐藤・横山,2005)と考えられます。
感染力の高いことが問題視されているコロナウィルスですが、細胞培養の際には、宿主特異性のため、アフリカミドリザル Cercopithecus aethiops の腎臓上皮細胞から株化されたVero細胞の他に増殖できる培養細胞系は殆どないそうです(田口, 2003)。
【SARSとMERS】
ヒトに感染するコロナウィルスには、アルファコロナウィルス属(HCoV-229E. HCoV-NL63), ベータコロナウィルス属(HCoV-HKU1, HCoV-OC43,)等いくつかの型(種)のあることがわかっていますが、ベータコロナウィルス属でこれまでに呼吸器症候群が報告されているのは、HKU1, OC43, SARS-CoV, MERS-CoVの4つの型であり(Yu et al.,2020)、そのうち重篤化の報告があるのは重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるSARS-CoVと中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるMERS-CoVのふたつです。
SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)は、2002年11月から2003年6月にかけて中華人民共和国南部でアウトブレークを起こしたSARS-CoVによるウイルス性の呼吸器疾患です。感染拡大が早く、感染者の約1割が死亡するため世界的に注目されましたが、2003年6月には封じ込めに成功し(田口, 2003)、現在では発症例は報告されなくなっています。
MERS(Middle East Respiratory Syndorome)は、2012年9月に発見されたMERS-CoVにより引き起こされる重症呼吸器感染症(押谷, 2013)で、ヒトコブラクダが感染源動物であるとされています。ヒトからヒトへの感染が確認されており、感染経路は飛沫と接触であるとされています。致死率の高いことが特徴の一つでありますが、無症状の感染者もいることがわかっており、2020年現在終息に至っていません(厚生労働省, 2020a)。
【新型コロナウィルス(COVID-19)】
2019年12月12日に最初の患者が湖北省武漢で発見された新型コロナウィルス(nCoV)は、武漢海鮮市場の従業員から採取した検体のゲノム分析により29,903塩基対の配列が決定され、そのうち89.1%がコウモリ由来のSARS様コロナウィルスと相同であったと報告されました(Wu et al., 2020)。この類似性のため、ウィルスはSARS-CoV-2と名付けられ、SARS-CoV-2による症状をCOVID-19と呼んでいます(Takeda, 2020)。
発熱、倦怠感、乾いた咳がCOVID-19の主な症状で、痛み、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、下痢などを訴える患者もいます(WHO,2020a, 国立感染症研究所, 2020b)。約8割は軽症で特別の治療をしないでも回復しますが、6人に一人程度が重症化し呼吸困難を発症します(WHO, 2020a)。一方、感染しても発症しない例も報告されています(Bai Y et al., 2020)など)。
マスコミ報道によれば、COVID-19感染者は、嗅覚障害、味覚障害を訴える症例があるとされていますが、或る程度の因果関係はあるものの、臭覚、味覚により感染の診断ができるどうかは検証されていません。現在、Am Soc Otolaryngology (2020)が症例の収集を行っています。
COVID-19の主な感染経路は飛沫と接触によるもので、ヒトからヒトへ感染します。WHO (2020a)は感染者の1メートル以内に近づかないことが、感染拡大防止に必要としています。一方、その宿主特異性により食品中での増殖はできないため、食品を介した感染の可能性は低いとされています(農林水産省,2020)。
SARS-CoV-2の安定性に関する確たる情報は見つけることが出来ませんでしたが、SRAS-CoVと同様(感染症情報センター, 2003)とすれば、常温では4日以内に失活すると考えてよさそうです。
SARS-CoV-2に対する抗ウィルス薬、ワクチンなど、COVID-19の治療薬は未開発(厚生労働省, 2020b)です。新薬の開発には時間がかかるため、既存のウィルス感染症治療薬による治療効果を試験している段階です。
【感染防止対策】
インフルエンザウィルスなどの他のエンベロープ構造を持つウィルス同様に、アルコール消毒が、SARS-CoV-2の失活化に有効で、80%エタノール、70%イソプロパノールなどが使用されます。手洗いや汚染が疑われる個所の拭き取りが有効であり、自らの顔周辺を触らないことも有効な対策です。
国立医薬品食品衛生研究所 (2020)によれば、SARS-CoVは、60℃30分以上の加熱で失活するとされており、SARS-CoVと類似性の高いSARS-CoV-2も十分な加熱処理が有効であると考えられています。
その他、COVID-19の対策に関しては厚生労働省のサイトに最新情報が掲載されています。
【感染者と死者】
主なウィルス疾患につき、感染者数と死亡者数をまとめてみると表1の様になりました。
表1.主な感染症による感染者数と致死率 | |||||
---|---|---|---|---|---|
名称 | 期間 | 感染例数 | 死者数 | 致死率 | 文献 |
COVID-19(全世界) | 2019.12 ~2020.3.30 ~2020.4.18 |
721,266 2,250,790 |
33,942 154,226 |
4.7% 6.9% |
worldmeter |
COVID-19(日本) | 2019.12 ~2020.3.30 ~2020.4.18 |
1,866 9,787 |
54 232 |
2.9% 2.4% |
worldmeter |
SARS | 2002-2004 | 8,400 | 800 | 9.5% | 田口(2003) |
MERS | 2012.9-2019.11 | 2,494 | 858 | 34.4% | 厚生労働省(2020a) |
新型インフルエンザ(日本) | 2009 | 20,000,000 | 203 | 0.001% | 厚生労働省 |
スペイン風邪(H1N1型) | 1918 | 500,000,000 | 40,000,000 | 8.0% | 羽原(2010)、Wikipedia |
鳥インフルエンザ(H5N1型) | 2003-2009 | 861 | 455 | 52.8% | WHO(2020b) |
エボラウィルス病(コンゴ) | 2018-2019 | 927 | 584 | 63.0% | 海外感染症発生情報(2019) |
この表での感染者数はどれくらいの検査をした結果なのかがわかりませんし、死亡者数は死亡に至った主因だったかどうかが不明ですので、直接の比較はしがたいのですが、それでも今のところCOVID-19の致死率はSARS, MERSほどには高くないと思われます。
【死亡リスク】
死亡原因別に人口100万人当たりの死亡数で比較すると表2のようになります。2020年3月末の時点では、COVID-19は新型インフルエンザを超える脅威とは考えられません。
表2.死亡リスクの比較 | |||||
---|---|---|---|---|---|
名称 | 地域 | 期間 | 死者数(人) | 文献 | |
実数 | 100万人 当たり |
||||
COVID-19 | 日本 | 2019.12 ~2020.4.3 ~2020.4.18 |
63 232 |
0.5 1.8 |
worldmeter |
新型インフルエンザ | 日本 | 2009 | 203 | 1.6 | 厚生労働省 |
悪性新生物 | 日本 | 2018 | 3,737,470 | 29,543 | 厚生労働省(2020) |
肺炎 | 日本 | 2018 | 946,540 | 7,486 | 厚生労働省(2020) |
自殺 | 日本 | 2018 | 20,169 | 160 | 厚生労働省(2020) |
交通事故 | 日本 | 2019 | 32,515 | 257 | 総務省統計局(2020) |
COVID-19 | 世界 | 2019.12 ~2020.4.3 ~2020.4.18 |
53,203 154,266 |
6.84 19.8 |
worldmeter |
エボラウィルス病 | コンゴ | 2018~2019 | 584 | 7.2 | 国立感染症研究所(2019) |
スペイン風邪(H1N1型) | 世界 | 2019 | 40,000,000 | 20,000 | 羽原(2010) |
【分析法】
SARS-CoV-2の全ゲノムは既に解析済み(Wu et al.,2020)ですが、この報告は次世代型高速シーケンサー Illumina MiniSeq を使った配列決定であり、今後は実際に機能している遺伝子との関係が明らかにされていくものと思われます。患者から採取した検体の検査は、当初は加熱と冷却を繰り返すことによってRNAを増幅するRT-PCR法が行われていたと思われますが、温度制御の必要がないLAMP法による検査法が確立された(キヤノンメディカルシステムズ,2020)ため、検査時間短縮が期待されるのですが、(報道映像などで見目限りでは)まだ十分に普及していないようです。このLAMP法によれば、同じベータコロナウィルス属に分類されるSARS-CoVとの区別も可能とのことです。
ここで問題になるのは、検査時の二次汚染(コンタミネーション)です。国立感染症研究所 (2020c)は、『検体は、バイオセーフティレベル2(BSL2)の実験室で検査し、必要な防護を行う必要がある。』としていますが、このレベルは検査機関による、あるいは国による違いの有る可能性があります。感染者の人数を見る時には、(通常は公表されない)陰性と判断された検体数と合わせてこの可能性も考慮する必要があります。
【まとめ(?)】
新型コロナウィルスCOVID-19に関しては、まとめが出来る時期ではありませんが、ウェブで調べた限り、厚生労働省のサイトをみておけば、現時点で得られる確かな情報はほぼ得られるといって良いようです。
引き続きしかるべき対策を継続しなければならないことは間違いありませんが、政策判断ミスにより他のリスク(例えば自殺や他の疾患による死亡)が高まることも懸念されます。
【文献】
新型コロナウィルスの世界的感染拡大を受けて、神奈川県にも週末の外出自粛要請が出されました。そこで、今日はハイキングコースへ。ロッククライマーが集いそうな山頂付近は避けつつ、逗子まで散策してみました。
季節は進んで、オニシバリ、ウグイスカグラは実が育ちつつありましたが、アリドオシはまだ蕾でした。ウツギ類ももうすぐ開花です。
【主な経路】
(自宅)-浜見台-沼間のスダジイ-神武寺奥の院(神武寺山)-十州望-神武寺本堂(薬師堂)-金毘羅山-池子神明社-池子隧道-六浦-(自宅)
【参考】
ウンナンオウバイ Jasminum mesnyi
イベリス Ibelis sp.
レンギョウ Forsythia suspensa
モモ Amygdalus persica
シラユキゲシ Eomecon chionantha
クサイチゴ Rubus hirsutus
ノハタカラクサ Tradescantia flumiensis
ウラシマソウ Arisaema urashima
モミジイチゴ Rubus palmatus var. coptophyllus
アオキ Aucuba japonica
シャガ Iris japonica
イタビカズラ Ficus nipponica
ホタルカズラ Lithospermum zollingeri
オニシバリ Daphne pseudomezereum
ウバユリ Cardiocrinum cordatum
ノゲシ Sonchus oleraceus
ヒメオドリコソウ Lamium purpureum
センチコガネ Geotrupes laevistriatus
サルトリイバラ Smilax china
スダジイ Castanopsis sieboldii
クロウリハムシ Aulacophora nigripennis
ヤマブキ Kerria japonica
タチツボスミレ Viola grypoceras
マルバウツギ Deutzia scabra
ムラサキケマン Corydalis incisa
ウグイスカグラ Lonicera gracilipes
コゴメウツギ Stephanandra incisa
シロヨメナ Aster ageratoides
キランソウ Ajuga decumbens
ノヂシャ Valerianella locusta
カンアオイ Asarum nipponicum
ヘラシダ Diplazium subsinuatum
ヒイロタケ Pycnoporus coccineus
神武寺奥の院
アリドオシ Damnacanthus indicus
ホルトノキ Elaeocarpus sylvestris (神武時のなんじゃもんじゃ)
六地蔵
こんぴら山やぐら群
金比羅神社跡
ヒサカキ Eurya japonica
ツルグミ Elaeagnus glabra
キブシ Stachyurus praecox
ツタバウンラン Cymbalaria muralis
ゲンペイコギク Erigeron karvinskianus
ヒメツルソバ Persicaria capitata
ヒメウズ Semiaquilegia adoxoides
キュウリグサ Trigonotis peduncularis
オニタビラコ Youngia japonica
ツルニチニチソウ Vinca major
クロマツ Pinus thunbergii 雄花
ヒメカンスゲ Carex conica
アメリカフウロ Geranium carolinianum
トウダイグサ Euphorbia helioscopia
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
アケビ Akebia quinata
ヤブツバキ Camellia japonica
ジャノメエリカ Erica canaliculata
美容室それいゆ(金沢区六浦南2丁目5-5)
マメカミツレ Cotula australis
スズメノカタビラ Poa annua
雷神社
ハナニラ Ipheion uniflorum
先週は自宅から屛風浦まででしたので、今日は上大岡から横浜まで歩いてみました。
桜の季節に向日葵を… part1 ひまわりを訪ねる(GoogleMap)
2010.7.31撮影、於:三次市君田町藤兼