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シバナ科の系統概要

 シバナ科(Juncaginaceae)は、APG-IV(2016)で1属からなるマウンディア科が分離新設された結果、現在では3属25-35種で構成される耐塩性を備えた種を含む湿地植物です(Mering and Kadereit,2015))。和名『シバナ』がユーラシア大陸に自生する他種のいずれに相当するのかは未解決の様で(原,1960)、少なくとも神奈川県では既に全滅しており(神奈川県植物誌,2018)、日本全体でも準絶滅危惧(Near Threatened)となっています。
 下記のシバナの写真は、横浜市こども植物園の「横浜の植物・植物標本展」で撮影したもので、70年ほど前に九十九里浜で採集された標本です。ここでは欧州産の(Triglochin maritimum)と同一種となっていました。

 維管束植物の分類【概要小葉植物と大葉シダ植物裸子植物被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹


【オモダカ目(Alismatales)の系統関係】Chen et al.(2022)
カワツルモ科(Ruppiaceae)は試料が供試されなかったため記載がありません。

  ┌オモダカ科(Alismataceae)
 ┌┤┌トチカガミ科(Hydrocharitaceae)
 │└┴ハナイ科(Butomaceae)
┌┤    ┌┬ヒルムシロ科(Potamogetonaceae)
││   ┌┤└アマモ科(Zostraceae)
┤│  ┌┤└┬ベニアマモ科(Cymodoceaceae)
││ ┌┤│ └ポシドニア科(Posidoniaceae)
││┌┤│└マウンディア科(Maundiaceae)
│└┤│└シバナ科(Juncaginaceae)
│ │└ホロムイソウ科(Scheuchzeriaceae)
│ └レースソウ科(Aponogetonacaeae)
└┬サトイモ科(Araceae)
 └チシマゼキショウ科(Tofieldiacaeae)

【オモダカ目(Alismatales) シバナ科(Juncaginaceae)】

和名 (Japanese Name) 画像 (Image) 学名 (Latin name) 英語名 (English name)
シバナ属 Triglochin
シバナ属の一種 シバナ属の一種
Triglochin sp. Arrowgrass

解説文転記
No.2 シバナ [環境省:純絶滅危惧種(NT), 神奈川県:絶滅]」
 シバナはかつて横浜西区の干潟、平沼付近での貴重な採集記録が残されている。現在は県内では絶滅したと考えられている単子葉植物。
 シバナとは「塩場菜」の意味で、潮が採れるような塩性の湿地に生えている。当時の横浜にはまだそうした自然の情景が残っていたのであろう。国内での自生も、特に関東以西では自生地が限られる貴重な植物である。かつてはホムロイソウ科に含まれていたが、花の構造が著しく異なることからシバナ科となった。半月型の切面となる多肉質の葉は、塩性地で体に水分を長く保持することに役立っている。
 シバナの学名は、戦前に中国北部の植物を研究したことで知られる植物学者の北川政夫に献名されています。命名者は北欧の系統分類学者Soris Löve。
【植物研究雑誌・1巻6号 p.154-155 段枝片葉(其三)しばな横濱ニ盡ク 参照】
【植物研究雑誌・35巻6号 190-192 シバナについて 原寛 参照】


横浜市bこども植物園標本 No.YCB605202
和名 シバナ
学名 Triglonchin maritmum L.
採集地 千葉県驚
採集者 久内清孝
採集年月日 1953年08月17日
久内標本コレクション 12-191
           2050-00100


(驚)という地名は長生村と白子町とにある.どちらか不明
YLB605202
Triglochin matitimum Lin
Nom Jap Shibana
in oppido Odoroki, Kazusa
17 Aug 1953


【文献】
Mering Sv and Kadereit JW (2015) Systematics, phylogeny and biogeography of Juncaginaceae, Mol Phylog Evol, 83, 200-212, DOI: 10.1016/j.ympev.2014.10.014, Accessed: 2024-09-28.
Mering Sv and Kadereit JW (2010) Phylogeny, Systematics, and Recircumscription of Juncaginaceae – A Cosmopolitan Wetland Family, In Seberg, Peterson, Barfod and Davis Edts, Diversity, Phylogeny, and Evolution in the Monochtyledons, URL: https://juncaginaceae.myspecies.info/sites/juncaginaceae.myspecies.info/files/von%20Mering%20%26%20Kadereit_2010_phylogeny_Juncaginaceae.pdf, Accessed: 2024-09-28.
原寛 (1960) シバナについて、植物研究雑誌, 35(6) 30-32, DOI: 10.51033/jjapbot.35_6_4529, Accessed: 2024-09-28.
Chen L-Y, Lu B, Morales-Briones DF, Moody ML, Liu F, Hu G-W, Huang C-H, Chen J-M and Wang Q-F (2022) Phylogenomic Analyses of Alismatales Shed Light into Adaptations to Aquatic Environments, Mol Biol Evol, 39(5):msac079, DOI: 10.1093/molbev/msac079, Accessed: 2023-08-10.
The Angiosperm Phylogeny Group and others (2016) An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV, Botanical Journal of the Linnean Society, 181(1), 1–20, DOI: 10.1111/boj.12385, Accessed: 2023-07-11.


神奈川県植物誌調査会(2018)神奈川県植物誌2018(上)、p249.
A035 シバナ科 JUNCAGINACEAE (勝山輝男)
 多年草,稀に1年草,葉は根生し線形,花序は穂状で,花には苞葉がない.花被は3枚が輪生し,雄しべは3個ずつ2輪につき,心皮は3または6.全体の姿がホロムイソウに似るので、ホロムイソウ科(Scheuchzeriaceae)に含めていたが,花の構造が著しく異なるので,現在は別科とされる。世界に4属25種あり,日本には1属のみがある。
†1.シバナ属 Triglochin L.
 世界に12種あり,日本にはシバナとホソバシバナ T. palustris L. の2種がある。
†(1)シバナ Triglochin asiatica (King) A. & D. Löve; T. maritimum auct. non L.
 河口や内湾などの塩湿地に生える。北海道,本州,四国,九州;北半球の温帯に広く分布する。県内ではかつて横浜の平沼が干潟だったころの標本が残されているが,1915年(大正4年)に埋め立てにより絶滅した(牧野1917).『箱根目58』に芦ノ湖とあるがこの標本は確認していない.『神RDB06』では絶滅と判定された.北海道や東北地方を除いて産地,個体数ともに少なく,『国RDB15』では絶滅危惧Ⅱ類にされた.
標本:横浜市平沼 1920.8.10 K.Hisauchi TI; 同 採集年月日不明 松野重太郎 ACM-PL030019, 030020; 武蔵横浜 1912.8.20 久内清孝TI; 武蔵横浜平沼 1913.9.21 牧野富太郎 MAK226663; 武蔵平沼 1888.8.26 牧野富太郎 MAK194633; 武蔵金川付近 1893.10 牧野富太郎 MAK194634; 武蔵神奈川浦島山 1904 牧野富太郎 MAK194632.