生物の分類は、この30年余りの分子生物学の研究成果を取り入れて大きく書き換えられています。その一例として、かつてはユリ科とヒガンバナ科を区別する基準とされた子房(後の果実)と花被(花弁と萼で果実では蔕に相当する)の位置の違い(子房上位/子房下位)は意味をなさなくなりました。具体的には、ネギ、ラキョウ、ニンニクなどを含むネギ亜科とムラサキクンシランを含むアガパンサス亜科は子房上位でユリ科とされてきたのですが、分子生物研究成果を取り入れたAPG III分類ではヒガンバナ科に移されています。
では、有毒植物が多く含まれるこのグループで、外見からヒガンバナ科を識別するにはどうしたらよいのでしょうか?『子房下位であればヒガンバナ科(亜科)である』というのは依然として正しいのですが、ネギ亜科のように子房上位の場合は子房位置からはユリ科、ヒガンバナ科を区別できないことになります。
現在の分類法でもヒガンバナ亜科に属するヒガンバナ、スイセンはどちらもアルカロイド系の毒性分を含んでいますし、日本人にとってのヒガンバナはユリとは一線を画していました。ところが、英語名をみていて気付くことはヒガンバナ科、ユリ科の植物の多くは『Lily』という総称で呼ばれていて、ユリ科とヒガンバナ科は『Lilies』という総称では明確に区別されていなかったようです。であれば、欧米では元々『Lilies』の中に食用になるグループと毒のあるグループがあると理解していて、分類変更の影響は我が国ほどではないのかも知れません。旧ユリ科の植物でもスズラン(現キジカクシ科)やバイケイソウ(現メランチウム科)のように毒性分を持つ植物は少なからずありますので、少なくとも食に供する際には、科や亜科にはこだわらず属あるいは種のレベルでしっかりと識別するのが無難だと言えましょう。
維管束植物の分類【概要、小葉植物と大葉シダ植物、裸子植物、被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹】
【これまで撮影したヒガンバナ科(Amaryllidaceae)植物】
アガパンサス亜科 Agapanthoideae | ネギ亜科 Allioideae | ヒガンバナ亜科 Amaryllidoideae |