雨がちな一日でしたが、ふたりで横浜駅周辺まで足を延ばしました。アジサイ等の写真は6月7日に撮影済みです。
横浜イングリッシュガーデン
ジョイナスの森 彫刻公園
茉莉花 Matsurika 1978
果実 Le Fruit 1911
踊り子 Passo di danza che riposa 1983
イワガラミ Schizophragma hydrangeoides
雨がちな一日でしたが、ふたりで横浜駅周辺まで足を延ばしました。アジサイ等の写真は6月7日に撮影済みです。
フトモモ科(Myrtaceae)は南半球起源と考えられており、我が国では小笠原諸島のムニンフトモモとヒメフトモモを除けば、在来種の自生は確認されていませんが、栽培されている個体を見かけることは、それほど珍しくありません。横浜市では、金沢動物園で飼育されているコアラの餌として栽培されているユーカリ林を初めとして、観賞用のギョリュウバイ、ブラシノキなどはよく見かけます。
フトモモ科は、堅果をつくるネズモドキ亜科(ユーカリ、ブラシノキ、ギョリュウバイ)と漿果をつくるミルトゥス亜科(フェイジョア、ギンバイカ)に分けられていましたが、今世紀になってからの研究成果(Wilson et al., 2005)によれば、この2亜科の区別は系統を反映していなかったことが示されています。
維管束植物の分類【概要、小葉植物と大葉シダ植物、裸子植物、被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹】
【フトモモ目(Myrtales) フトモモ科(Myrtaceae)】
【参考文献】
Wilson PG, O’Brien MM, Heslewood MM and Quinn CJ (2005) Relationships within Myrtaceae sensu lato based on a matK phylogeny, Plant Syst Evol, 251, 3–19, DOI: 10.1007/s00606-004-0162-y, Accessed: 2023-06-11.
金澤八景のひとつ、野島の
そろそろジョウザンアジサイが開花する頃と思い、横浜イングリッシュガーデンを尋ねました。春バラのハイシーズンは終わっているとはいえ、ウィークデーにも関わらず結構賑わっていました。
世界のトップに達した日本のアジサイ育種
1980年代になると、日本でもアジサイの育種が行われるようになります。1984年には現在のアジサイ人気の火付け役となった’ミセス・クミコ‘が登場します。この品種は今までのアジサイにはなかった大きな装飾花と、花弁の縁に細かな切れ込みが入る撫子弁を特徴とし、大いに人気を呼びます。そして、1992年に開催されたオランダのフロリアードでは、’ミセス・クミコ’は金賞を受賞することとなります。同じ1992年のフロリアートでは占め覆輪の’フラウ・レイコ’とコンパクトな’ピーチ姫’も金賞を受賞し、日本のアジサイが世界に向けてその存在を知らしめます。
10年後の2002年のフロリアードでも、清澄沢アジサイを交配に用いた赤覆輪が特徴とする’リップルス’と’未来‘、’ラブ・ユー・キッス’の3品種が金賞を受賞し、日本のアジサイ育種のレベルの高さを示すこととなります。その後も国産アジサイの秀作は次々と登場していきます。世界初の八重咲手毬咲きとなる’ポーズィー・ブーケ・シリーズ’やフリルと糸覆輪が美しい’レオン’、独特な花型が印象的な’ダンスパーティー‘、絞り模様の品種の先駆けとなった’ダンシング・クイーン'(=舞姫)、白覆輪八重の’万華鏡‘、’プリンセス・シャーロット’、赤覆輪八重の’Keiko’や’ひな祭り’、’恋物語‘、などなど。
このようにわずか20年ほどで、日本のアジサイがシクラメンの後作として生産しやすく、かつ人気の鉢物になって生産数が増えたことなどによるものと思われます。
現在、日本のアジサイの育種は円熟期を迎えていると言え、かつての、「西洋アジサイ」という言葉は、もはや死語というべきかも知れません。そして地味な「地方の花」は、今では「世界の華」になったのです。
文:横浜イングリッシュガーデン・スーパーバイザー 河合伸志
分子生物学手法の利用による植物分類であるAPG分類体系が普及するに伴って科の所属まで変更になる植物は少なくありませんが、なかでもオオバコ科は多くの参入がありました。そこで、APG分類でのオオバコ科の写真を整理していたところ、改めて気づいたことに、イヌノフグリの写真が一枚もありませんでした。絶滅危惧種Ⅱ類に指定された由縁でしょうか。
Xie et al.(2023)の解析結果によれば、オオバコ科内に6つのクレードが識別され、オオバコ連とイヌノフグリに代表されるクワガタソウ連は同一クレードに配されるとのことです。
APG-IV体系による植物の目一覧
【オオバコ科の新分類一案】
クレードI:Angeronieae(アンゲロニア連)、Gratioleae(オオアブノメ連)
クレードⅡ:Russelieae(ハナチョウジ連)、Cheloneae(ジャコウソウモドキ連)
クレードⅢ:Antirrineae(キンギョソウ連)
クレードⅣ:Callitricheae(アワゴケ連)
クレードⅤ:Sibthorpieae(キクガラクサ連)
クレードⅥ:Plantago(オオバコ連)、Veronica(クワガタソウ連)、Hemiphragmeae(サクマソウ連)
【オオバコ科 Plantaginaceae の植物】
和名 (Japanese Name) | 画像 (Image) | 学名 (Latin name) | 英語名 (English name) |
---|---|---|---|
クワガタソウ連 Veroniceae クワガタソウ属 Veronica | |||
イヌノフグリ | No Photo |
Veronica polita | Grey Field-speedwell |
オオイヌノフグリ | ![]() |
Veronica percica | Birdeye speedwell |
タチイヌノフグリ | ![]() |
Veronica americana ver. arvensis | Wall speedwell |
クワガタソウ連 Veroniceae クガイソウ属 Veronicastrum | |||
クガイソウ | ![]() |
Veronicastrum axillare ver. japonicum | Culver’s physic |
オオバコ連 Plantagineae オオバコ属 Plantago | |||
オオバコ | ![]() |
Plantago asiatica | Asiatic plantain |
トウオオバコ | ![]() |
Plantago japonica | - |
ヘラオオバコ | ![]() |
Plantago lanceolata | Ribwort plantain |
ツボミオオバコ | ![]() |
Plantago virginica | Virginia plantain |
ジギタリス連 Digitarideae ジギタリス属 Digitalis | |||
ジギタリス | ![]() |
Digitalis purpurea | Foxglove |
キンギョソウ連 Antirrhineae キンギョソウ属 Antirrhinum | |||
キンギョソウ | ![]() |
Antirrhinum majus | Snapdragon |
キンギョソウ連 Antirrhineae ウンラン属 Linaria | |||
ホソバウンラン | ![]() |
Linaria vulgaris | Common toadflax |
リナリア・マロッカナ | ![]() |
Linaria maroccana | Moroccan toadflax |
ヒメキンギョソウ | ![]() |
Linaria bipartita | Clovenlip toadflax |
キンギョソウ連 Antirrhineae マツバウンラン属 Nuttallanthus | |||
マツバウンラン | ![]() |
Nuttallanthus canadensis | Canada toadflax |
キンギョソウ連 Antirrhineae ツタバウンラン属 Cymbalana | |||
ツタバウンラン | ![]() |
Cymbalana muralis | Coliseum ivy |
アンゲロニア連 Angeronieae アンゲロニア属 Angelonia | |||
アンゲロニア・セレナ | ![]() |
Angelonia serena | Narrowleaf angelon |
【文献】
神奈川県環境農政局緑政部自然環境保全課 (2022) イヌノフグリ、In 神奈川県レッドデータブック2022 植物編, p.279, URL: https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t4i/cnt/f12655/p1197000.html, Accessed:2023-06-06. Xie P, Tang OL, Luo, Liu YC & Yan H (2023) Plastid Phylogenomic Insights into the Inter-Tribal Relationships of Plantaginaceae, Biology, 12(2), 263, DOI: 10.3390/biology12020263, Accessed: 2023-06-06.
Rahn K (1996) A phylogenetic study of the Plantaginaceae, Bot J Linnean Soc, 120, 145-198, URL: https://academic.oup.com/botlinnean/article/120/2/145/2607889, Accessed: 2023-06-05.
Shehata AA & Loutfy MH (2006) On the Taxonomy of Plantaginaceae Juss. Sensu Lato: evidence from SEM of the Seed Coat, Turkish J Bot, 30, 71-84, URL: https://journals.tubitak.gov.tr/botany/vol30/iss2/2/, Accessed: 2023-06-06.
イズハハコ Eschenbachia japonica Syn. Conyza japonica, Erigeron japonicus
イズハハコは、キク科サワギク連に属するあまり目立たない姿をした植物ですが、神奈川県では今世紀になってから確認例がなく、神奈川県植物誌調査会(2018)では絶滅種となっています。現在の学名は、Eschenbachia japonicaですが、これまでの経緯から少なくとも3つの学名が並立していますので、その経緯を調べて見ました。
【キク科の関連種】
和名 (Japanese Name) | 画像 (Image) | 学名 (Latin name) | 英語名 (English name) |
---|---|---|---|
サワギク連 Senecioneae イズハハコ属 Eschenbachia | |||
イズハハコ |
Link to Kew Royal Botanic Gardens![]() |
Eschenbachia japonica | - |
シオン連 Astereae アズマギク属 Erigeron | |||
ハルジオン |
![]() |
Erigeron philadelphicus | Philadelphia fleabane |
ヒメジョオン |
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Erigeron annuus | Annual fleabane |
ペラペラヨメナ (源平小菊、メキシコ雛菊) |
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Erigeron karvinskianus | Mexican fleabane |
ヒメムカシヨモギ |
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Erigeron canadensis | Canadian horseweed |
オオアレチノギク |
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Erigeron sumatrensis | Sumatran fleabane |
アレチノギク |
![]() |
Erigeron bonariensis | Hairy fleabane |
【所属変更の経緯】
1.最初の命名(1874)
Thunberg(1874)が長崎商館勤務時代に採集した試料を基に、Conyza japonicaとして記載しました。当時、我が国で記載されたConyza属は本種だけでしたので、Conyza属は『イズハハコ属』となりました。
2.エングラー体系での位置づけ(1892)
現在でもわが国では最も普及したままとなっているアドルフ・エングラーによる植物分類体系である『エングラー体系』(1892)でのConyza属はErigeron属に統合されていました。これによれば、イズハハコはErigeron japonicusとなるのですが、Erigeron属は1000種を超える大所帯で、Erigeron属とConyza属は明確に整理されていなかったため、依然としてConyza japonicaも使い続けられていたようです。
3.外来種の侵入
19世紀末の開国後、Erigeron属、Conyza属の外来種が次々に侵入して定着(吉岡・日下部,2018など)していきます。現在でも定着している外来種としては下記のようなものがあります。
ヒメムカシヨモギ Erigeron (Conyza) canadensis
アレチノギク Erigeron (Conyza) bonariensis
オオアレチノギク Erigeron (Conyza) sumatrensis
ハルジオン Erigeron Philadelphicus
ヒメジョオン Erigeron annus
ペラペラヨメナ Erigeron karvinskianus
4.Conyza属の分離(1943)
エングラー体系の後継と目されていたクロンキスト体系で知られるCronquist(1943)は、Erigeron属からConyza属を(再)分離することを提案しました。
5.属の所属訂正(1952)
Kaster(1952)は、マレー半島でのキク科植物の調査に基づき、イズハハコをEschenbachia属に移しました。Eschenbachia属は、Taxon Pagesによれば、674種を含む属なのですが、我が国に自生する種は3種のみで、種名にはいずれも『イズハハコ』を含みますので、Eschenbachia属はイズハハコ属となりました。この変更により、属の上位分類である連(tribe)もシオン連(Astereae)からサワギク連(Senecioneae)へと変更になります。
6.ムカシヨモギ属からアズマギク属への名称変更
Erigeron属は、中国の蓬が我が国のヨモギ(Artemisia spp.)ではなかったことが判明したことに由来して『ムカシヨモギ』と名付けられたとされていますが、あまり相応しいとは思われなかったためか、最近ではアズマギク属と言われることが多いようです。吉岡・日下部(2018)によれば、改訂新版 日本の野生植物(平凡社)(1984-1989)で採用されて広まったようです。
7.ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、アレチノギクの所属変更
吉岡・日下部(2018)によれば、APG(被子植物系統グループ)の分類体系ではAPG-III(2009)から、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギクは、Erigeron属となったそうです。また、DNA分析により種を識別する技術であるDNAバーコーティングにより、葉緑体のDNA配列を使ってヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、アレチノギクの3種を他のシオン連(Astareae)の種から識別することが可能(Wu et al.,2018)になっています。
8.現在の位置づけ(2000~)
Noyes(2000)は、遺伝子解析の結果からErgeron属を6つのグループに分ける事が出来ることを示しています。属の下位分類ですので、節(section)に相当すると思われるグループ分けで、Erigeron属内でのハルジオンとヒメジョオンとはそれほど近くないこと、旧ConyzaをErigeron属に統合したことは妥当であったことなどが見て取れます。
Group IV
ハルジオン Erigeron Philadelphicus
Group V
アレチノギク Erigeron (Conyza) bonariensis
Group VI
ヒメジョオン Erigeron annus
ペラペラヨメナ(源平小菊、メキシコ雛菊) Erigeron karvinskianus
ヒメムカシヨモギ Erigeron (Conyza) canadensis
(Conyza基準種) Erigeron (Conyza) chilensis
Nesom(2020a,2020bは)、遺伝子解析の終わっているConyzaの5種は全てErigeron属内に識別されるとしており、Conyzaの基準種であるConyza chilensisもアレチノギクと同じグループとなることを示しています。今のところ遺伝子解析の終わっていない(旧)Conyza属も残されている様ですが、やがて旧Conyza属の種は全てErigeron属に移され、属名としてのConyzaは消滅していくと考えられます。
ウツギ類の花の季節が過ぎていきます。ヤマアジサイに続いてガクアジサイの開花も始まっていますので、今日はアジサイ類の品種が多数集められている瀬戸神社を尋ねました。この神社では数年前から、ヤマアジサイを中心にアジサイ類のコレクションを公開していて、交配種や園芸種を含めると100種以上が栽培されています。
アジサイ属の6分割 2024年5月26日
【主な経路】
(自宅)-雷神社-上行寺東遺跡-お伊勢山-レイディアントシティ-釜利谷東-泥亀-瀬戸神社-六浦-(自宅)
ヤマアジサイ エゾアジサイ コガクウツギ ヤクシマアジサイ ヤマアジサイ×コガクウツギ ヤマアジサイ×トカラアジサイ ガクアジサイ ガクアジサイ × 西洋アジサイ コアジサイ×ガクウツギ 西洋アジサイ アメリカノリノキ ヤマアジサイ×西洋アジサイ 園芸アジサイ イワガラミ ウツギ類 その他、本日撮影
クロンキスト体系が提唱された際にアジサイ連などを含むアジサイ類の所属がユキノシタ科からアジサイ科として独立したことには気づいておりましたが、更にアジサイ属を6属に分割する案(大場・秋山、2016)が提出されていました。この提案によれば、Hydrangeaの基準種がアメリカノリノキであるため、我が国の自生アジサイ類は、新称Hortensia等に移されることになります。葉緑体DNAの遺伝子解析の結果(De Smet et al,2015)に基づいた提案ですから、やがて広く受け入れられていくものと思われます。ガクアジサイ、ヤマアジサイなど新アジサイ属の名称がHydrangeaでなくなってしまうのは、聊か残念ではありますが……。
維管束植物の分類【概要、小葉植物と大葉シダ植物、裸子植物、被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹】
【参照文献】
大場秀章, 秋山 忍(2016)旧アジサイ属の再分類と学名提唱、植物研究雑誌、91:6、345-350、DOI: 10.51033/jjapbot.91_6_10703, Accesed:2023-05-25.
De Smet Y, Mendoza CG, Wanke S, Goetghebeur P. and Samain M-S (2015) Molecular phylogenetics and new (infra) generic classification to alleviate polyphyly in tribe Hydrangeeae (Cornales: Hydrangeaceae). Taxon 64, 741–753, URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.12705/644.6, Accessed: 2023-05-26.
JACOBS, Sarah J(2010) Flag Flower Morphology and Phylogeny of Hydrangeaceae Tribe Hydrangeeae (Thesis for Master Degree), URL: http://www.dissertations.wsu.edu/Thesis/Spring2010/s_jacobs_042110.pdf, Accesed:2023-05-24.
Hirota SK, Yahara T, Fuse K, Sato H, Tagane S, Fujii S, Minamitani T, Suyama Y (2022) Molecular phylogeny and taxonomy of the Hydrangea serrata complex (Hydrangeaceae) in western Japan, including a new subspecies of H. acuminata from Yakushima, Phytokey, 188, 49-71, DOI: 10.3897/phytokeys.188.64259, Accesed:2023-05-24.
鷹取山では、ウツギ類の季節は過ぎて、アジサイ類やイワタバコの季節はすぐそこです。今一番目に付くのはオニシバリの赤い実でした。