スベリヒユ属の植物たち

 本日、大宮の実家で熱帯アメリカから帰化したと考えられているヒメマツバボタン(ケツメクサ)を見かけました。同種は最近分布が広がっているように感じますし、同属(スベリヒユ属)の栽培種との関係も気になりましたので、少し文献を紐解いてみました。


 夏の暑い盛りにも元気な花の代表というと、サルスベリ、キョウチクトウ、ノウゼンカズラなどを思い浮かべる事が多いと思いますが、かつては、夏の路傍で足元に目を移せば小さな黄色い花を咲かせたスベリヒユがあちらこちらに生えていたものです。スベリヒユは、世界中の熱帯域を中心に広く分布する普通種で、食用になりますので、非常用食料の普及のために選定された夏の七草にも選ばれています。
 スベリヒユ属の園芸種としてはマツバボタンが江戸時代末期から知られていましたが、最近では属名のポーチュラカとして流通しているカラフルな花のハナスベリヒユを園芸店でよく見かけます。いずれも逸出して半野生化しているのを時折みかけます。

 APG植物分類体系第3版(APG III)で、スベリヒユ科(Portulacaceae)はスベリヒユ属(Portulaca)1属に整理され、現在世界中に約100種が知られています。逸出も含めると本邦に自生する同属の植物は、スベリヒユ、ヒメマツバボタン、マツバボタン、オキナワマツバボタン、タイワンスベリヒユの5種、本州に限るならスベリヒユ、ヒメマツバボタン、マツバボタンの3種になります。

 これらのうちスベリヒユは食用として利用され(Aberoumand, 2009)、その栽培品種の一つがタチスベリヒユです。その他のスベリヒユ属も(試したことはないですが)美味しくて栄養豊かな食材として利用できるそうです。園芸用のマツバボタンはヒメマツバボタンの亜種とされることもありますが、遺伝子の解析結果(Ocampo & Columbus, 2012)によると他系統の独立種というのが正解のようです。ポーチュラカの名前で流通しているハナスベリヒユの由来は明らかでないようですが、スベリヒユとマツバボタンとの交配種とも考えられているそうです。

 オキナワマツバボタンとタイワンスベリヒユ(帰化種)は奄美諸島と沖縄諸島に限って分布しており、本土での自生は未確認の様です。オキナワマツバボタンは、奄美諸島と沖縄諸島の固有種でかつてヒメマツバボタンの亜種とされていましたが、遺伝子解析の結果、現在では独立種として扱うことが提案されています(Kokubugata et al. 2013)。同種は、2018年版の環境省レッドリストでCR(絶滅危惧IA類:ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)として記載されています。同種には、2013年に記載されたアマミマツバボタンという変種が含まれます(Kokubugata et al. 2013, 2016)。

 スベリヒユの仲間は、夜のうちに気孔を開いて二酸化炭素を蓄えておき、昼間は気孔を閉じて蒸散を防ぎながら光合成することが出来るCAM植物(Crassulacean Acid Metabolism Plant)です。このため夏の盛りでも多少水やりを忘れたくらいでは枯れることなく花を咲かせ続けてくれます。C4植物でもあり、C4型光合成の中間代謝物であるリンゴ酸を蓄積するため、独特の酸味があると考えられます。
 葉序の基本は互生ですが、茎の上部では、類対生、輪生などになることがあり、これを属内のクレード識別に利用する試みもあるようです(Ocampo & Columbus, 2012)。


 以下、これまでに撮影したスベリヒユの仲間です。

【参考】
 スベリヒユ Portulaca oleracea、英名:Common purslane
  タチスベリヒユ P. oleracea var. sativa、英名:purslane
 ヒメマツバボタン P. pilosa、英名:Shaggy purslane
 マツバボタン P. grandiflora、英名:Moss-rose purslane
  ハナスベリヒユ P. oleracea x P. grandiflora、英名:Green purslane
 タイワンスベリヒユ P. quadrifida、Syn: P. psammotropha、英名:Chikenweed
 オキナワマツバボタン P. okinawensis
  アマミマツバボタン P. okinawensis var. amamiensis

【参考文献】
 米倉浩司(2014)スベリヒユ科、in 日本維管束植物目録、北隆館、東京、163-164.
 長田武正(1976)ヒメマツバボタン、in 原色日本帰化植物図鑑育、保社、大阪、319.
 北村四郎・村田源(1961)すべりひゆ科、in 原色日本植物図鑑草本遍[II]・離弁花類、保育社、大阪、276-278.
 Murdy W (1995)スベリヒユ科、in 世界の植物、朝日新聞社、東京、7-278 – 7-285.
 Ocampo G & Columbus JT (2012) Molecular phylogenetics, historical biogeography, and chromosome number evolution of Portulaca (Portulacaceae), Mol. Phyl. Evol., 63(1), 97-112、accessed 2018-9-25.
 The Angiosperm Phylogeny Group(2009) An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III, Bot J London Soc, 161. 105-121、accessed 2018-9-25.
 環境省(2009)レッドリスト植物Ⅰ維管束植物、accessed 2018-9-25.
 Kokubugata G, Ito T and Yokota M (2016) Confirmation of the Occurrence of Portulaca okinawensis var. amamiensis (Portulacaceae) in Kakeroma Island of the Ryukyus Archipelago, Japan using Morphological and Molecular Data, Bull Matl Mus Nat Sci, Sre B, 42(2), 67-71., accessed 2018-9-26.
 Kokubugata G, Nakamura K, Hirayama Y and Yokota M (2013) Taxonomic reexamination of Portulaca okinawensis (Portulacaceae) in the Ryukyu Archipelago of Japan based on molecular and morphological data, Phytotaxa, 117, 11-22, accessed 2018-9-26.
 Ezekwe MO, Omara-Alwala TR and Membrahtu T (1999) Nutritive characterization of purslane accessions as influenced by planting date, Plant Foods for Human Nutrition, 54(3), 183-191, accessed 2018-09-29.
 Aberoumand A (2009) Nutritional Evaluation of Edible Portulaca oleracia as Plant Food, Food Analytical Methods, 2:204. https://doi.org/10.1007/s12161-008-9049-9, Accessed 2018-10-05.

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