名前にイヌ(犬)のつく植物たち

 「イヌ」がつく植物の名前は、「本家に似ているけど役に立たない」というニュアンスで付けられいることが多い様です。ただし、「イヌ」がついていると必ず別物である訳ではありませんし、横浜市指定名木古木の呼称は(恐らく)地元での通り名を採用しているため、統一性に欠けている様です。備忘のため、名称を以下に整理しておきます。


【マキとイヌマキ】


イヌマキ:No.48068 浄念寺

ラカンマキ No.201029:赤井山正法院

イヌマキ(犬槇)、ラカンマキ(羅漢槇)、マキ(槇)
 学名:Podocarpus macrophyllus
 英名:Largeleaf podocarp

 イヌマキはマキ科イヌマキ属の常緑高木で樹高20mに達します。マキ科は南半球起源と思われ、我が国に自生するのは、イヌマキ属のイヌマキとナギ属ナギの二種のみであり、標準和名がマキという名の植物は存在しません。釜利谷の赤井山正法院のラカンマキ(var. maki)はイヌマキの変種です。
 「イヌマキ」に対する『マキ』がなんであるかは諸説あるようですが、「本槇」と呼ばれるのはコウヤマキ科のコウヤマキ(高野槇)であり、葉の形状は似ていて、イヌマキが赤色の偽果に対して、コウヤマキは毬果を付けます。コウヤマキは更新世以降、他の地域では絶滅したため、現在では我が国の固有種となっています。


イヌマキの実

コウヤマキの実

 なお、横浜市が名木古木に指定している「マキ」は、これまでのところすべてイヌマキでした。


【カヤとイヌガヤ】


カヤ No.48137:瀬戸神社

イヌガヤ:浄林寺跡

カヤ(榧)
 学名:Torreya nucifera
 英名:Japanese torreya
イヌガヤ(犬榧)
 学名:Cephalotaxus harringtonia
 英名:Japanese plum yew

 カヤとイヌガヤはどちらもイチイ科の常緑高木で、葉の形状はよく似ていますが、イヌガヤの方が一回り大きく柔らかいため、先端の尖っている部分を握っても痛くないとの判別法をよく見かけます。しかしながら、個人的感想としては、イヌガヤの葉でも多少痛みを感じます。カヤはイヌガヤより樹脂臭が強いので、近くに行くことが出来れば匂いでなんとなく判断できます。
 カヤの実(榧実(ひじつ))の核果は食用になりますが、イヌガヤの核果は苦くて食用には適さないとされます。ただし、イヌガヤの仮種皮は黒紫色で外観は良くありませんが、食せば甘くて美味しいそうです。核果はいずれもアーモンド形ですが、カヤの核果の表面は皺が多く、イヌガヤの核果はつるっとしているので、果実が落ちていればこれで判別できます。
 カヤの材は碁盤材として他の樹種の追随を許さないため、イヌガヤの方が「イヌ」となっていると思われます。我が国北部に分布するハイイヌガヤ(var. nana)はイヌガヤの変種で、果実酒など食用にされることが多いようで、雪国では生け垣などにも使われる有用樹です。一方、カヤの北方系の変種チャポガヤ(var. radicans)は、触るとチクチクするためか、あまり利用されていないようで、雪国対応の変種では『イヌ』の関係が逆転しています。


【ツゲとイヌツゲ】


イヌツゲ No.49041:久應山攝取院宝秀寺

ツゲ(柘植、黄楊)
 学名 : Buxus microphylla var. japonica
 英名:Japanese Box
イヌツゲ(犬柘植)、マメツゲ(豆柘植)
 学名:Ilex crenata var. crenata
 英名:Japanese holly

 ツゲはツゲ科ツゲ属、イヌツゲはモチノキ科モチノキ属です。いずれも通常は灌木で庭木や垣根などに利用されていますが、刈り込みされているため、樹形の特徴がなくなっているのが普通であり、遠目で区別することは容易ではありません。
 確実な識別法としては、ツゲは対生、イヌツゲは互生と樹木学の講義で学んだことを今でも記憶しています。葉の先端は、イヌツゲでは尖りますが、ツゲでは先が少しだけ窪んで(微凹頭)います。またイヌツゲの葉をよく見ると丸い鋸歯があります。  葉の比較
 イヌツゲはモチノキ属なので、花は、同属のソヨゴ、クロガネモチ、タラヨウ等によく似ているのに対して、ツゲの花には花弁がありません。
 ツゲの材は緻密で均一であることから、櫛、将棋の駒をはじめとする加工品への用途があったため、「ホンツゲ」の座を獲得したと思われますが、生育はイヌツゲの方が早いため、庭園木、生け垣などではイヌツゲの方がむしろ多用されています。現在公表されている横浜市指定の名木古木はすべてイヌツゲです。
 マメツゲ(f. bullata or var.convexa)はイヌツゲの品種で、実生で繁殖するとイヌツゲになってしまうため、接ぎ木で増やす必要があります。
 なお、「黄楊」は中国名ですが、日本のツゲとは別変種を指しており、日本のツゲは「小葉黄楊」と表記して区別されるそうです。


【イヌシデとアカシデ】


イヌシデ 品川区保存樹第55号(品川区荏原7-5-14)

アカシデ:大宮公園(さいたま市大宮区高鼻町4)

イヌシデ(犬四手)
 学名:Carpinus tschonoskii
 英名:Korean hornbeam

 イヌシデはカバノキ科クマシデ属の落葉高木で、本邦産の近縁種としてアカシデ(赤四手 C. laxiflora)、クマシデ(熊四手 C. japonica)、サワシバ(沢柴 C. cordata)、イワシデ(岩四手 C. Turzaninovii)の4種があり、特によく似ているのはアカシデです。樹全体に赤みが強く、赤く紅葉するのがアカシデですが、両種を区別しない時には併せてソロノキと称します。ソロノキは優良な榾木ほだぎとなるだけでなく、盆栽にも欠かせない樹種です。
 シデ(四手、椣)という名は、クマシデ属(Carpinus)の総称であり、雄花が注連縄しめなわに飾る紙垂しでに似ているからとされています。一方、単に「シデ」あるいは「ホンシデ」という種に関する記述はみつけられず、クマシデ、サワシバをソロノキと呼ぶ場合もあり、いずれも雑木林では普通種なので、本種が何故「イヌ」なのかは不明です。
 2021年2月の段階では、横浜市の名木古木は一本も確認できていません。(今後、訪問予定)
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【その他】これまでに撮影した「イヌ」の付く名前の植物たち
 こうしてみると結構あるのに驚きます。イヌ自体に由来する犬殖栗いぬふぐりを除くと、どれも(手抜き感があって)あまり相応しい名称とは思えません。


 イヌビワ Ficus erecta
 イヌビユ Amaranthus blitum
 ホナガイヌビユ Amaranthus viridis
 イヌホウズキ Solanum nigrum
 テリミノイヌホウズキ Solanum americanum
 アメリカイヌホウズキ Solanum ptychanthum
 オオイヌノフグリ Veronica persica
 タチイヌノフグリ Veronica arvensis
 イヌカキネガラシ Sisymbrium orientalis
 イヌバラ Rosa canina
 イヌタデ Persicaria longiseta
 イヌゴマ Stachys japonica
 イヌドクサ Equisetum ramosissimum
 イヌナズナ Draba nemorosa
 イヌトウバナ Clinopodium micranthum
 イヌグス(タブノキ) Machilus thunbergii

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