シンテッポウユリ Lilium x formolongi ~ New Easter Lily

 盛夏(8月)の頃、暑さの影響で他の花卉の開花が一休みになる時期に、清楚な花を咲かせる白百合があります。


花冠に紫褐色の筋のある個体(2018-08-04)

花冠に紫褐色の筋がない個体(2020-08-09)

 このユリは、6月頃に見頃を迎えるテッポウユリに良く似ているのですが、テッポウユリの葉は通常幅1cmを超えるのに、このユリの葉の幅は1cm以下です。テッポウユリの花は全体が純白であるに対して、このユリは花冠の外側に紫褐色の筋が入っていることがあるので、タカサゴユリではないかと考えていたのですが、『テッポウユリとタカサゴユリにはハイブリットが育種されていて、シンテッポウユリと呼ばれているが、このシンテッポウユリは形態的にタカサゴユリと区別がつかない』との情報がありましたので、当ブログではこのユリを『白百合 lilium sp.』としてきました。
 しかしこの学名では、他のユリ属植物(ヤマユリ、スカシユリ、オニユリなど)との区別がつきませんので、なんとか識別できないものかとウェブを検索していて、木場(2005)の記述をみつけました。この記載の趣旨を要約すると、
1.テッポウユリ Lilium longiflorum (Easter Lily)は、本邦南西諸島に自生する。
2.タカサゴユリ Lilium formosanum (Formosa lily)は、台湾に自生するが、1924年に我が国に導入された。
3.テッポウユリは、タカサゴユリより姿が美しかったが初夏咲きだったため、盛夏に開花するタカサゴユリの形質を導入するべく、1940年代以降、両種の交配がさかんに行われ、成立した交配種はシンテッポウユリとして切り花市場を中心に普及していった。
4.現在野外でよくみられるテッポウユリに似た白百合が分布拡大したのは、1970代であり、タカサゴユリの導入から半世紀が経過している。
  (ここまでは事実であると思われ、以降は木場氏の推定が含まれますが……、)
5.上記4により、このユリがタカサゴユリであるとは考えにくい。(市橋加筆:また、テッポウユリとは明らかに形態が異なっているので)現在、野外で見かける白百合の起源は、交配育成されたシンテッポウユリの逸出であると考えられる。
 ここで、野外で見かける白百合は自然交雑で形成された可能性もあるのですが、両種は開花期が全く異なります。テッポウユリの花粉を冷蔵保存しておいて、タカサゴユリに授粉するという人為が介在したと考えるのが妥当と思われます。
 ウェブ検索したところ、当該種の遺伝子研究は、開花時期をコントロールするために必要な花芽形成にかかわる植物ホルモン(フロリゲンなど)に関する例は多いのですが、分類所属を検討した例はみつけることができませんでした。木場(2005)はいわゆる灰色文献で、正式に出版されているとは言い難いのですが、主張は正しいと思われますので、以降このブログでは当該種に対して『シンテッポウユリ Lilium x formolongi New Easter liliy』を採用したいと思います。
【文献】
木場英久(2005)シンテッポウユリのすすめ、日本帰化植物友の会通信、No.5、p.6、URL: http://www.zennokyo.co.jp/kktmo/kk_pdf/05.pdf, Accessed: 2022-06-01.
神奈川県植物誌調査会(2018)シンテッポウユリ Lilium × formolongo Hort.; L. formosanum Wallace × L. longiflorum Thunb, In 神奈川県植物誌2018(上)、p.283.
Okazaki K(1996)Lilium species native to Japan, and breeding and production of Lilium in Japan. Acta Hortic, 414: 81–92, DOI: 10.17660/ActaHortic.1996.414.8, Accesed: 2022-06-03.
Yu-Fan L, Yu-Qian Z, Meng Z, Gui-Xia J, & Michele Z(2018)Functional and Evolutionary Characterization of the CONSTANS-like Family in Lilium x formolongi, Plant Cell Physiol, 59(9), 1874-1888, URL: https://academic.oup.com/pcp/article/59/9/1874/5033791?login=true, Acceseeced: 2022-06-03.
樋口幸男(2016)恵泉花の文化史(11)帰化植物としてのシンテッポウユリ、恵泉女学園園芸文化研究所報告,12,67-72, URL: https://keisen.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=992&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1, Accesed: 2022-06-03.


注:神奈川県植物誌1988/2018では、シンテッポウユリの学名として『Lilium x formolongo』を採用していますが、その理由(正当性)は今後要調査です。

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