イチョウ科(Gikgoceae)は、現生種としては1属1種で、イチョウ綱イチョウ目に属す単独科でもあり、第四紀前半の最終氷期を生き延びる事が出来なかったグループの唯一の生き残りと言えます。
ただし、イチョウ綱の姉妹群と考えられているソテツ綱の現生種と同じく、イチョウ(Gikgo biloba)が『生きた化石』と呼ばれるほど古い時代に他の植物から分岐していたかについては疑問が呈されています。Hohmann et al(2018)によれば、絶滅種を含むグループとしてのイチョウ類は、約3億2500万年前(古生代石炭紀)に分岐成立したものの、種としてのイチョウが枝分かれしたのは、僅か39万年前(第四紀更新世チバニアン)のことであると推定されるそうです。更新世と言えば、現生種がほぼ出揃っていた時代であり、既に被子植物が繁栄していましたし、現生人類と比べても同程度の古さと言えます。
イチョウは、高木街路樹としては近年最もよく利用されており(瀨古,2017)、御神木や名木古木も多数あるので普通種として認識されていますが、日本国内では自生は認められておらず、有史以前に絶滅したと考えられています。現在世界中で植栽されるイチョウの原産地は中国安徽省あたりであると考えられているようですが、人為の加わらない状態での自生は、当該地でも定かではないようです。このため、絶滅危惧種のリストであるレッドリスト(ワシントン条約附属書)への記載はなくなっています(CITE,2023)。
イチョウ類は、花粉媒介に大切な役割を担っている昆虫類が反映する以前に分化しているため、多くの裸子植物がそうであるように風媒花です。被子植物との大きな違いとして、イチョウは受粉後に精原細胞から精子を形成することが知られており、精子はその後120日かかって卵に到達することが報告されています(Nakao et al.,2001)。
現生裸子植物の目の一覧 APG-IV体系による被子植物の目一覧
【イチョウ目(Ginkgoales) イチョウ科(Gikgoceae)】
和名 (Japanese Name) | 画像 (Image) | 学名 (Latin name) | 英語名 (English name) |
---|---|---|---|
イチョウ属 Ginkgo | |||
イチョウ | Ginkgo biloba | Ginkgo |
【文献】
Hohmann N, Wolf EM, Rigault P, Zhou W, Kiefer M, Zhao Y, Fu C-X and Koch MA (2018) Ginkgo biloba’s footprint of dynamic Pleistocene history dates back only 390,000 years ago, BMC Genomics, 19:299, 1-16, DOI: 10.1186/s12864-018-4673-2, Accessed: 2023-11-9.
瀨古祥子(2017)街路樹の根上がりに対する課題認識と植栽環境条件に関する研究、京都府立大学大学院博士学位論文、108p., DOI: https://kpu.repo.nii.ac.jp/record/6109/files/2017_G53_Seko.pdf, Accessed: 2023-11-7.
CITES (2023) Appendices I, II and III valid from 21 May 2023, https://cites.org/sites/default/files/eng/app/2023/E-Appendices-2023-05-21.pdf, Accessed: 2023-11-9.
Nakao Y, Kawase K, Shiozaki S, Ogata T and Horiuchi S (2001) The Growth of Pollen and Female Reproductive Organs of Ginkgo between Pollination and Fertilization, J Jap Soc Hort Sci, 70(1), 21-27, DOI: 10.2503/jjshs.70.21, Accessed: 2023-11-9.
Liua J, Zhang S, Nagalingum NS, Yu-Chung Chiang Y-C, Lindstrom AJ and Gong X (2018) Phylogeny of the gymnosperm genus Cycas L. (Cycadaceae) as inferred from plastid and nuclear loci based on a large-scale sampling: Evolutionary relationships and taxonomical implications, Mol Physiol Evol, 127, 87-97, DOI: 10.1016/j.ympev.2018.05.019, Accessed: 2023-11-7.
Christenhusz MJM and Byng JW (2016) The number of known plants species in the world and its annual increase, Phytotaxa. 261(3), 201–217. DOI: 10.11646/phytotaxa.261.3.1, Accessed: 2023-10-05.