ヤシ科Trachycarpeae連の属への検索表(外出自粛なので…part3)

【概要】
 わが国で地植え可能なヤシ科植物の多くはコウリバヤシ亜科Trachycarpeae連に属しており、以下の9種は関東あたりでもよくみかけます。
カナリーヤシ(Phoenix canariensis)は、葉が羽状で樹高10mを超える。幹にはシダ類の着生することが多い。
シンノウヤシ(Phoenix roebelenii)は、葉が羽状の小型ヤシで鉢植えの観葉植物としても利用される。
シュロ(Trachycarpus fortunei)は、葉が扇状で、葉柄基部に繊維網を密に生じる。
 トウジュロはシュロのなかでも葉先が下垂しない園芸種。シュロとの中間型が存在し、実生育成するとシュロと区別がつかない個体を生ずることがあるためシュロと同一種と見做されている。
チャボトウジュロ(Chamaerops humilis)は、トウジュロに似るが、葉の先端がさらに2裂する。
カンノンチク(Rhapis excelsa)は、幹は細身で竹に似ており、葉は扇状で6-10裂する。
シュロチク(Rhapis humilis)は、カンノンチクに似るが、扇状葉は7-18裂する。
ビロウ(Livistona chinensis)は、葉身が規則正しく分裂、先端はさらに2裂し、葉柄の基部には逆刺を有する。花序にはビロード毛(tomentum)が密に宿存する。
 オガサワラビロウ(L. boninensis )は、小笠原諸島に広く分布し、果実の長径が最大30mmとビロウより大きいこと、花序のビロード毛を欠くこと等で識別される。長くビロウの変種(L. chinensis var. boninensis )とされてきたが、Dowe(2001)により北村四郎の記載当初の通りに独立種とすることが提案され、PalmWEbもこれを受け入れている。
 メイジマビロウは、小笠原諸島の聟島列島、母島列島の姪島などに分布する。オガサワラビロウより小型で葉柄基部の逆刺が殆ど目立たない。分類的な位置は確定していない様だが、遺伝的にオガサワラビロウから隔離していることが確認されているため、島間の移動自粛など保全に際しては配慮が必要とされている。
ワシントンヤシ(Washingtonia filifera)は、扇状の葉に白い糸状の繊維が垂れ、樹高20mに達する。オニジュロの別名がある。
ワシントンヤシモドキWashingtonia robusta)は、ワシントンヤシより細身で、幹は概ね電柱より太くならならず、ゆるやかに湾曲することが多い。
  ヤシ科植物の写真整理 ヤシ科植物原産地マップ 内向敷石状と外向敷石状 PALMeweb
  亜科への検索表 夢の島熱帯植物 板橋区立熱帯環境植物館 サムエル・コッキング苑



 コウリバヤシ亜科(Coryphoideae)は北半球の熱帯起源と考えられており、わが国でもなじみ深いシュロやビロウが含まれています。ここでは、これらが含まれるTrachycarpeae連の属への検索表を和訳してみたのですが、通常、ヤシ科の花を近くで観察することは簡単ではないので、花序等に関する記述を割愛すると識別できなくなってしまうことに気づきました。また、チャボトウジュロ属は元の検索表では全く触れられていませんでしたので、わが国を念頭に加筆したのが上述の概要です。小笠原諸島、南西諸島や九州南端に分布するクロツグはTrachycarpeae連ではないので触れませんでしたが、コウリバヤシ亜科Caryoteae連に分類されています。
 なお、関東地方の暖地では、アレカヤシ亜科に属するブラジルヤシ属も普通にみることができますし、南西諸島であればヤエヤマヤシ、ノヤシが自生しており、この2種もアレカヤシ亜科です。さらに、西表島のマングローブ林ではニッパヤシ(ニッパヤシ亜科)もみられるそうです。


ヤシ科コウリバヤシ亜科Trachycarpeae連の属への検索表 (Dransfield et al.,2008)
1.雌器は全長で遊離した3つ心皮からなる。
(Rhapidinae亜連)
     ——————————————2
1.雌器は基部では遊離するが、花糸の先端部で合着した3つ心皮からなる。
(Livistoninae亜連と亜連の所属未定のTrachycarpeae連)
     ——————————————6
2.葉は背軸(裏側)の折れ目に沿って裂けて、外向敷石状と裂片となる
     ——————————————36.Guihaia
2.葉は向軸(表側)の折れ目に沿って裂ける
     ——————————————3
3.雄蕊の花糸は遊離する
     ——————————————4
3.花糸は輪状に合着あるいは花冠着生する
     ——————————————5
4.葉鞘繊維は棘状ではなく、葉身は向軸の折れ目に沿って裂け、花序は葉鞘に沿って生ずる。種子は種皮に深く侵入する。
     ——————————————37.Trachycarpus(シュロ属)
4.葉鞘繊維は棘状。葉身は折れ目の間で裂け、花序は葉鞘の間深くに生ずる。種子は種皮に深く侵入することはない。
     ——————————————38.Rhapidophyllum
5.幹は細身で竹に似る。葉は折れ目の間で裂けて、いくつかの裂片となり、大抵は切り取ったような先端(切形)となる。螺旋状の花被は多汁で肉厚な革質。萼片は合着する。雄蕊の花糸は遊離し、花冠着生する
     ——————————————40.Rhapis(カンノンチク属)
5.幹は頑丈で竹に似ることは殆どない。葉身は向軸の折れ目に沿って鋭頭あるいは鈍裂の裂片に裂ける。螺旋状の花被は膜質ないし革質。萼片は明らかに鱗状、雄蕊の花糸は合着し花冠着生する。
     ——————————————39.Maxburretia
6.葉身は裂けずダイヤモンド型、羽状脈で、中肋は明瞭。葉柄と葉身の基部には鉤状の鋸歯がある。花序はそれぞれ膨大した苞葉を持つ。果実はコルク質の疣があり、内胚乳は種皮により不規則に深く貫入されている。
     ——————————————43.Johannesteijsmannia
6.葉身は断裂し、断裂しない時にもダイヤモンド型かつ基部に鋸歯をもつことは殆どない。果実表面は平滑で、コルク質の疣があるときにも葉身は断裂する。
     ——————————————7
7.葉身は背軸(裏側)の折れ目に沿って、(稀に)単一または複数の折り畳みに断裂するが、大抵は楔状の断裂となるかまたは断裂しない。
     ——————————————42.Licuala
7.葉身は向軸(表側)の折れ目に沿って、単一あるいは複数の折り畳みに断裂するが、切形には断裂しない。
     ——————————————8
8.花序は大抵長い花柄を伴い、先端に向かってのみ、またはごく基部から軸方向に2-4倍の長さでで分枝する。先端に向かってのみ分枝し、葉腋ごとにひとつ以上の花序を生ずることもある。花冠は雄蘂群が明らかに露出する開花後に早落する。種皮は貫入しない。
     ——————————————51.Pritchardia
8.花序は先端に閉じ込められずに分枝する。花冠は開花後に早落することはないが、極めて稀に遅れて脱落する。
     ——————————————9
9.苞葉は側面で裂けて剣型に垂下し、花弁は比較的大きく、平らな芽鱗に覆われ、内表面に溝はない。開花時に強く反り返る。花柱は雌器種子部分の長さの約3倍に伸長する。花と果実には小花柄があり、果実には芽鱗が宿存する。
     ——————————————52.Washingtonia(ワシントンヤシ属)
9.花序の苞葉は菅状で、開花時に剣状の鞘に裂けることはない。花弁は平らでも芽鱗状でもなく、内表面の葯に一致する溝がある。花糸の長さは種子部分と同じか、時として2-2.5倍(Serenoa属)。
     ——————————————10
10.果実は大きく平滑(成熟時に直径約5cm)。中果皮は海綿状で、短い繊維が内果皮の近傍か密着して癒着する。内果皮は三角形の基部の突起物を伴い、ひとつは丸く、その他の3つは竜骨状となる。胚は偏心し頂部優勢となる。内胚乳は著しく浅裂した種皮の貫入を伴う。
     ——————————————45.Pritchardiopsis
10.果実は様々で、大きい時はコルク質の疣を伴うことがある。内果皮は平滑で竜骨状にはならず、基部に突起物はない。胚は外側胚あるいは基底胚で、種皮の貫入はある場合とない場合がある。
     ——————————————11
11.葉柄および屡々葉脈は丈夫な鋸歯を伴う。果実のうち頂部の心皮は不稔。種子は内果皮に包まれる。
     ——————————————50.Copernicia(ロウヤシ属)
11.葉柄は突起物がある場合とない場合があり、鋸歯を欠く、基底胚は通常不稔となる。種子は同種の内胚乳を伴い、時として種皮が貫入する。
     ——————————————12
12.種皮が内胚乳に貫入する
     ——————————————13
12.種皮は内胚乳に貫入しない
     ——————————————15
13.幹は孤立し、時として中位で片面が膨大する。葉柄には突起物はない。雄蕊は花冠を超えて突出する。
     ——————————————49.Colpothrinax
13.幹は束生し、直立または匍匐し分枝する。葉柄は棘状で、葉身は細かいか粗い鋸歯を伴う。雄蕊は花冠を超えて突出しない。
     ——————————————14
14.茎(幹)は直立し、密に叢生する。花は扇状集散花序(多出集散花序)で一組あるい単独で小軸の先端に向かって配置する。鱗状の萼片は明瞭あるいは基部で合着する。雄蕊は基部の環状部に合し、遊離部は短く切形で狭い。果実は球形で縫線は短く、かろうじて種子長の半分より長い程度。
     ——————————————46.Acoelorrhaphe
14.茎(幹)は匍匐性で、稀に直立する。花は単生か時として2集花で、萼は菅状で3裂し、雄蕊は基部で合着し、遊離部は漸次狭まる。果実は長楕円形で、縫線は枝分かれし種子の長さまで延長する。
     ——————————————47.Serenoa
15.萼片は明瞭に鱗状。
     ——————————————48.Brahea
15.萼片は基部で合着する。
     ——————————————16
16.葉身は深く分裂して裂片となり。さらに浅く分裂し単一のて裂片となる。雄蕊群は明らかな環状となり、厚く基部では殆ど遊離する。花糸は遊離し細く丸く膨大することはない。雌器は先端が糸紡状。果実は非常に大きく(少なくとも直径6cm)、通常コルク質の疣がある。
     ——————————————44.Pholidocarpus
16.葉身は規則正しく単一の裂片に分裂する。きわめて稀に複合の裂片となる(L. saribus, L. exigua)。雄蕊群環は頂部で扇状に広がり花冠着生する。雌器は子房室の上で最も広くなり、花柱に向かって急に狭くなる。果実は小さく(稀に成熟時の直径が4cmを超える)平滑。
     ——————————————41.Livistona(ビロウ属)


【参考】
 我が国で地植え栽培可能なヤシとその他の名が知れている(一部の)ヤシのリストです。ヤシ科で最も多様化しているのはアレカヤシ亜科で、ヤシ科の半分以上の属はアレカヤシ亜科に属しますが、このリストでは北半球起源とされるコウリバヤシ亜科のほうが多くなっています。
          ヤシ科の亜科への検索表
Coryphoideae (コウリバヤシ亜科)
 Sabaleae (サバル連)
 Cryosophileae連
 Phoeniceae (ナツメヤシ連)
   Phoenix属
    カナリーヤシ (P. canariensis) ∨
    ナツメヤシ (P. dactylifera) ∨
    シンノウヤシ (P. roebelenii) ∨
 Trachycarpeae (シュロ連)
  Rhapidinae (シュロチク亜連)
   Chamaerops属
    チャボトウジュロ (C. humilis) ∨
   Trachycarpus属
    シュロ (T. fortunei) ∨
     (トウジュロ:園芸品種) ∨
   Rhapis属
    カンノンチク (R. excelsa) ∨
    シュロチク (R. humilis) ∨
  Livistoninae (ビロウ亜連)
   Livistona属
    ビロウ(枇榔) (Livistona chinensis var. subglobosa) ∨
    オガサワラビロウ (Livistona boninensis) ∨
    メイジマビロウ ∨
   Licuala属
    ウチワヤシ (Licuala grandis) ∧
  亜連未分類
   Washingtonia属
    ワシントンヤシ (W. filifera) ∨
    ワシントンヤシモドキ (W. robusta) ∨
 Chuniophoeniceae連
 Caryoteae連
   Arenga属
    クロツグ (A. engleri) ∨
 Corypheae (コウリバヤシ連)
 Borasseae (パルミラヤシ連)
Arecoideae (アレカヤシ亜科)
 Cocoseae (ココヤシ連)
  Arecinae亜連
   ビンロウ(檳榔) (Areca catechu) ∧
  Attaleinae亜連
   ブラジルヤシ (Butia capitata) ∧
   ヤタイヤシ (Butia yatay) ∧
   ココヤシ (Cocos nucifera) ∧
 Areceae (アレカヤシ連)
  Carpoxylinae亜連
   ヤエヤマヤシ (Satakentia liukiuensis) ∧
  Clinospermatinae亜連
   ノヤシ (Clinostigma savoryanum) ∧
  Dypsidinae亜連
   アレカヤシ(ヤマドリヤシ) (Dypsis lutescens) ∧
  ∨:内向敷石状に葉身が断裂、∧:外向敷石状に葉身が断裂


【文献】
Dransfield J, Natalie WU, Lange CBA, Baker WJ, Harley MM & LewisCE (2008) Genera Palmarum – The Evolution and Classification of Palms, 219p., Kew Ryal Botanic Garden, UK,, DOI: 10.34885/92, Accessed: 2022-02-06.
北村四郎・村田源(1979)原色日本植物図鑑木本編Ⅱ、保育社、東京、545p.
森林総合研究所森林遺伝研究領域、小笠原諸島における植栽木の種苗移動に関する遺伝的ガイドライン、URL: https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/chukiseika/documents/3rd-chuukiseika25.pdf, Accessed: 2022-02-12.
Ohtani M,Tani N and Yoshimaru H (2009)Isolation of polymorphic microsatellite loci in Livistona chinensis (Jacq.) R.Br. ex Mart. var. boninensis Becc., an endemic palm species of the oceanic Bonin Islands, Japan, Conserv. Genet., 10:997–999, DOI: 10.1007/s10592-008-9671-5, Accessed: 2022-02-12.
Dowe JL (2001) Studies in th genus Livistona (Cryphoideae: Arengaceae), PhD thesis, Janes Cook University, URL: https://researchonline.jcu.edu.au/24103/, acesses: 2022-02-13.

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