先日、鎌倉アルプスのハイキングコースを歩いていてシロウリガイ類の化石見かけたのですが、何故そんなところに産していたか気になりましたので、改めて調べて見ました。
維管束植物の分類【概要、小葉植物と大葉シダ植物、裸子植物、被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹】
軟体動物門 二枚貝類
![]() シロウリガイ類の化石 |
![]() 現生のシロウリガイ |
【シロウリガイ類とは】
シロウリガイ類は、鰓上皮細胞内の硫黄細菌との共生による化学合成を行うことによりエネルギーを得ることができるため、光の届かない深海に生息することが知られています(藤原,2003)。日本近海に現生するシロウリガイ類としては、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)の他にナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformi)、ナラクシロウリガイ(Calyptogena fossajaponica)など、水深3,000m以上の深海からも発見されています(Okutani et al.,2009)。従って、シロウリガイ類の化石が多産する地層は堆積当時深海底であったことが伺われます。
シロウリガイ(Calyptogena soyoae)は、1955年11月に建造後間もない2代目蒼洋丸を用いて実施された航海で、城ヶ島沖の水深750mから採集された標本を用いて、奥谷喬により記載されました(Okutani,1957)。奥谷は、新潟県の中新統上部から鮮新統下部(ほぼ600万年前の地層)で発見(Oinomikado and kanehara,1938)されたCalyptogena nipponicaがシロウリガイに酷似しているとしていますが、C. nipponicaのタイプ標本は失われており、詳しいことは分からなくなっています。シロウリガイ類化石としては、Akebiconcha kawamurai(アケビガイ)、Calyptogena nipponica等として記載された例(蟹江,1990)があるそうですが、軟体部の失われている化石種について遺伝子情報を用いた解析は出来ませんので、現生種との系統関係は必ずしも明らかではありません。
【三浦半島の地層】
三浦半島は南方のフィリピン海プレートの沈み込みに伴って押し上げられているため、長期的に見れば現在でも隆起が続いており(国土地理院,1971)、南西方向に行くほど古い地層が露出しています。このうちシロウリガイ類化石を他産するのは、三浦半島の中ほどに位置し逗子市を中心に露頭がみられる三浦層群池子層であることが知られていて(松島・平田,1991)、池子層の堆積年代は鮮新世初期、概ね400万年前(鈴木,2010)と推定されています。一方、先日シロウリガイ類化石をみかけたハイキングコースは、池子層より北の上総層群の露頭がみられるエリアなので、気に懸かったのですが、池子層より北に位置する上総層群の浦郷層、野島層でもシロウリガイ類は見つかっていました(宇都宮・真嶋,2012)。さらに、池子層より南に位置する横須賀市池上の葉山層群(約1500万年前)でもシロウリガイ類の化石が発見されていました(菅野・蟹江,1995)。従って、三浦半島のシロウリガイ類化石は池子層のみならず新第三紀層に広く分布していて、鎌倉アルプスでシロウリガイ化石に遭遇することは十分あり得る事を確認できました。シロウリガイ類化石を埋蔵する地層の堆積年代は概ね1500万年~200万年前の範囲と思われますが、今後新たな化石発見があれば、年代範囲も広がるのかも知れません。
【文献】
Oinomikado T and kanehara K (1938) A new species of Calyptogena from the Higashiyama Oil Field, Niigata-Ken, Japan, J Geol Soc Jap, 45(539), 677-678+pl.21, DOI: 10.5575/geosoc.45.677, Accessed: 2025-08-27.
Okutani T (1957) Two new species of bivalves from the deep water in Sagami Bay collected by the R.V. “Soyo-Maru”, Bull Tokai Reg Fisher Res Lab, (17), 27-30+pl1, URL: https://dl.ndl.go.jp/pid/2304791/1/15, Accessed: 2025-08-27.
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江藤哲人 (1986) 三浦半島三浦・上総両層群の層位学的研究, 横浜国立大学理科紀要第二類生物学・地学, (33), 107-132, URL: https://ynu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1663&file_id=20&file_no=1, Accessed: 2025-08-26.
江藤哲人 (1989) 三浦半島北部池子地域の地質, 横浜国立大学理科紀要第二類生物学・地学, 36, 87-100, URL: https://ynu.repo.nii.ac.jp/record/1683/files/KJ00004479084.pdf, Accessed: 2025-08-30.
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