キク科の写真整理 グリーンネックレス イズハハコ属(Conyza → Eschenbachia)
維管束植物の分類【概要、小葉植物と大葉シダ植物、裸子植物、被子植物(APG-IV体系)】【生物系統樹】
キク科(Asterales)やマツムシソウ属(Scabiosa)の花は、小花(Floret)と言われる花の集合体によって構成されているため、厳密には花序(Inflorescence)です。この様に小花が花茎を介さずに円盤状に集合した花序は頭状花序(Capitulum)と呼ばれます。頭状花序を構成する小花は、その構造から筒状花(Tubular Flower)と舌状花(Ligulate Flower)が区別され、例えばヒマワリの花の中心部は筒状花、周辺部は舌状花で構成されています。
【筒状花と舌状花からなる頭状花序】 |
ヒマワリ Helianthus annuus ヒマワリ連 Heliantheae |
シオン Aster tataricus シオン連 Astereae |
ガーベラ Gerbera jamesonii ムティシア連 Mutisieae |
【筒状花のみの頭状花序】 |
ハハコグサ Gnaphalium affine ハハコグサ連 Gnaphalieae |
ノアザミ Cirsium japonicum アザミ連 Cardueae |
イソギク Chrysanthemum pacificum キク連 Anthemideae |
【舌状花のみの頭状花序】 |
ブタナ Hypochaeris radicata タンポポ連 Cichorieae |
ノゲシ Sonchus oleraceus> タンポポ連 Cichorieae |
カントウタンポポ Taraxacum platycarpum タンポポ連 Cichorieae |
頭状花序の種は主としてキキョウ類(Campanulids)に属していて、キク科、カリケラ科、マツムシソウ連(スイカズラ科)が相当しますが、系統との関係は定かではないようです(図1)。その他にも系統的にはかなり離れているイネ目ホシクサ科は頭状花序を形成するようです。
図1【キキョウ類(Campanulids)の系統概要】Lundberg and Bremer(2003)
キキョウ類(Campanulids)
│ ┌キク目(Asterales)
│ ││ ┌ロウセア科(Rousseacea)
│ ││┌┴┬ユガミウチワ科(Pentaphragmataceae)
│ │││ └キキョウ科(Campanulaceae)
│ │└┤ ┌MGCA Clade
│┌┤ │ │└┬ミツガシワ科(Menyanthaceae)
│││ │┌┤ └┬クサトベラ科(Goodeniaceae)
│││ │││ └┬カリケラ科(Calyceraceae)
└┤│ └┤│ └キク科(Asteraceae)
││ │└スティリディウム科(Stylidaceae)
││ └APA Clade
││ └┬アルセウオスミア科(Alseusniaceae)
││ └┬フェリネ科(Phellinaceae)
││ └アルゴフィルム科(Argophyllaceae)
││ ┌パラクリフィア目(Paracryphiales)
││┌┴┬マツムシソウ目(Dipsacales)
│└┤ └セリ目(Apiales)
│ └エスカロニア目(Escalloniales)
└モチノキ目(Aquifoliales)
図2は、科の下の分類群である連(tribe)レベルで、頭状花序を構成する小花の種類を示しています。ただし、例外も多数あり、例えばキク連に属するイソギク、マメカミツレ、メリケントキンソウに舌状花はありませんし、ヒマワリ連のセンダングサ属、シオン連のアズマギク属のように舌状花の発達が良くない種もあります。
キク科の姉妹群と考えられるカリケラ科の花序は筒状花のみから構成されますが、キク科ではもっとも早くに分岐したと考えられているバルデシア連は筒状花と舌状花で構成される頭状花序を持っているので、キク科植物はカリケラ科から分岐した8300万年前(Mandel et al.,2019)には既に頭状花序だったと考えてよさそうです。
これまで撮影した写真、入手可能な文献やウェブ掲載画像などから判断する限り、筒状花を欠くのはタンポポ連だけであり、半数以上の連では筒状花と舌状花の両方で花序が構成されていること、また古い時代に分岐した連ほど舌状花を欠くことが多いことなどが伺われます。
以上から、舌状花あるいは筒状花のどちらかを欠く種は、二次的にそれらのどちらかを失ったと推測されるのですが、必ずしも遺伝だけで決まっているとは言えないようです。
図2【キク科(Asteraceae)の系統概要】Mandel
et al.(2019)
アズマギク属Erigeronは、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギクなど、舌状花の発達が良くない、または舌状花を欠く種が含まれるのですが、通常個体では舌状花がよく発達する種でも、稀に舌状花の発達の芳しくない個体がみられ、さらには同じ株内や、ひとつの花序内でも舌状花の大きさに違いの見られることがあります。
舌状花の発達が不均一なハルジオン |
株全体で舌状花の短いハルジオン |
さらに、イヌカミツレMatricaria inodora(キク連)では、オーキシン投与により筒状花が舌状花に変化する(Zoulias et al.,2019)という興味深い報告がありますので、キク科の頭状花序での小花の分化は、遺伝だけでなく環境要因が関与していると考えてよさそうです。
【言葉の整理】
花序:Inflorescence
花軸(茎)に対する花のつき方
花床():receptacle
花序軸が短縮して平面状になったもの
頭状花序():Capitulum (pl. Capitula)
円盤状の花床に無柄の小花が密生する花序、『頭花』と略すこともある。
小花():Floret
頭状花序、肉穂花序、隠頭花序などを構成する花柄を持たない個々の花。
筒状花():Tubular Flower
筒状の小花。花弁部分は5放射相称の星型となることが多い。頭状花序との混同を避けるために『つつじょうか』と発音することもある。
舌状花():Ligulate Flower
基部は筒状であるが、上部は合弁して舌状となる小花。
二唇形筒状花():Bilabiate Tubular Flower
舌片が向かい合って2枚つく、舌状花から筒状花への移行形と考えられている小花で、コウヤボウキ連でみられる。
中心小花():Central Floret, Disk Floret
頭状花序の円盤状の花床の中心部分を構成する小花。通常は筒状花なので、筒状花の意味で用いられることもある。
周辺小花():Outer Floret , Ray Floret
頭状花序の円盤状の花床の周辺部分を構成する小花。中心小花と区別する必要がある時の周辺小花は通常舌状花なので、舌状花の意味で用いられることもある。
【文献】
Mandel JR, Dikow RB, Siniscalchi CM, Thapa R, Watson L and Funk VA (2019) A fully resolved backbone phylogeny reveals numerous dispersals and explosive diversifications throughout the history of Asteraceae, Proc Natl Acad Sci, 116(28), 14083-14088, DOI: 10.1073/pnas.1903871116, Accessed: 2023-10-20.
神奈川県植物誌調査会(2018)神奈川県植物誌2018(下)、p1492-1645.
Lundberg J and Bremer K (2003) A Phylogenetic Study of the Order Asterales Using One Morphological and Three Molecular Data Sets, Int J Plant Sci, 164(4), 553–578,DOI: 10.1086/374829, Accessed: 2024-08-18.
Zoulias N, Duttke SHC, Garcês H, Spencer V and Kim M (2019) The Role of Auxin in the Pattern Formation of the Asteraceae Flower Head (Capitulum), Plant Physiology, 179, 391–401, DOI: 10.1104/pp.18.01119, Accessed: 2024-08-18.